川越東、12年ぶり4強 全国高校野球埼玉大会

(24日・県営大宮)

 第13日は県営大宮で準々決勝2試合が行われ、秋春連続4強の川越東が春日部共栄に延長十四回の末、1−0でサヨナラ勝ちし、12年ぶりのベスト4入りを決めた。選抜大会出場の花咲徳栄西武台に11−10で競り勝ち、3年ぶりの準決勝に進出した。

 川越東はエース高梨が10奪三振で8安打完封。延長十四回に山田が左前にサヨナラ適時打を放って、3時間28分の激戦に終止符を打った。春日部共栄の鎌田は十三回まで無失点に抑える力投を見せた。

 花咲徳栄は九回、1点差まで追い上げられたものの、救援の橋本が逆転のピンチを切り抜けた。西武台は西山の4安打2打点の活躍などで最大5点差を追い上げた。

 第14日は25日、県営大宮で準々決勝の残り2試合が行われ、4強が決まる。

花咲徳栄、乱打制した本命の底力

 ほおをつたったのは冷や汗か、それとも脂汗か。花咲徳栄は再三突き放しても、何度もしぶとく食らいついてくる西武台にあわやの場面まで追い込まれた。

 4−0から4−3、8−3から8−5、10−6から10−8。八回裏に「これで決着」とばかりに1点を追加し11−8。しかし九回の守りに試練が待っていた。

 2番手の山口がつかまり4連打で2失点。1点差とされ、なおも1死二、三塁の一打逆転のピンチに球場全体が西武台の押せ押せムードに包まれる。岩井監督はたまらず左腕の橋本をマウンドに送った。

 橋本は「絶対抑えてやろうと思った」と、ここまで4安打の西山を右飛に打ち取り、渡辺をスライダーで空振り三振。命からがら逃げ切った。

 「こんなに打たれた記憶はない」と岩井監督は疲れ切った表情。先発五明と2番手山口が西武台打線に17安打を浴びた。

 特に誤算は五明で、9安打6失点と五回もたなかった。岩井監督は「精神的なすきがあった」と苦戦の原因を探る。

 背番号1の左腕は4点の援護をもらった直後の二回、一塁へのゴロのベースカバーが遅れて無死一、二塁。続く送りバントを「自分の判断が遅れて焦った」と、一塁へ悪送球し1点を失った。

 リズムを崩してこの回3失点。相手に「いける」という気持ちにさせてしまった。「守備には申し訳ないことをした」と五明。岩井監督は「守備はしっかり守ってくれるが、投手が一人で頑張ろうとしてしまう。まだまだ意思疎通ができていない」と戒める。

 それでも投手陣の不調を打線がカバーし、13安打で11得点。一度も追い付かれなかったのは、さすがAシードの実力。「負けられない重圧があり、苦しかったが、今日で一回死んだから、気楽にやらせたい」と岩井監督。上は見ず、とにかく準決勝に一球入魂する。

西武台、つなぐ野球で総攻撃

 心臓の鼓動が波打ち、全身の細胞がざわめく。八回裏に3点差とされ勝負あったかに見えた最終回。しかし西武台ナインの目はギラギラ輝いていた。

 執念に燃える市川、榎本人、高橋、村山が球にくらい付く。右へ左へ4連打で1点差。なおも1死二、三塁と一打逆転の大チャンス。優勝候補大本命の切り札左腕をマウンドに引っ張り出した。打席にはそれまで4打数4安打2打点の西山。ベンチ、応援スタンドのボルテージは最高潮だ。

 だが相手左腕橋本もさすがの投球。西山は変化球に差し込まれ右飛。続く渡辺に期待が懸かったが、ワンバウンドの変化球にバットが空を切り三振。振り逃げを期待し、一塁へ懸命に走った渡辺はそのまま崩れ落ちた。

 「ごめん」。渡辺は試合後に熱中症で救急車に搬送された。試合中は気配を見せずにナインを鼓舞。「勝ちたい」。その一念のために。

 チームの思いも同じだった。登録20人中15人を投入する総攻撃。離されては食い下がり、花咲徳栄の13安打を上回る17安打を放った。花咲徳栄の岩井監督は「あれだけ単打が打てるとは、よっぽど打ち込んできたのだろう」と脱帽した。

 打撃に比重を置いて毎日毎日、飽きることなく打ち込んだ。バットを短く持ちコンパクトに、つなぐ野球を徹底。主将の高橋の目は自信にあふれ、「自分たちは練習してきた。それは入学してからずっと変わらない。今日の勝敗は紙一重」と背筋を伸ばした。

 初の4強は逃したが、勝山監督は「胸を張っていい」と泣きやまぬナインに声を掛けた。シード2校を破り、甲子園出場校にもひるまない。前へ前へと進み続けた姿は、誰しもを熱くさせた。

春日部共栄、得点機にあと1本が出ず

 のどから手が出るほど欲しかった1点が遠かった。百戦錬磨の本多監督も開口一番、「こんな試合になるとは思わなかった。あと1本が出なかった」。川越東の左腕高梨を攻略できなかった攻撃陣の甘さを敗因に挙げた。

 得点機を何度も逃した。六回の2死二、三塁、延長十一回には薮内、池内の単打などで1死満塁の好機を築いたが、いずれも後続が倒れた。

 「内角高めにズバッと来る球威に押された。相手投手の実力が一枚上手だった」。3回戦から5回戦までの3試合をすべて1点差で勝ち抜いてきた指揮官は、1点の重さをかみしめた。

 敗れたが、延長十四回を最後まで死力を尽くして戦い抜いた選手たち。最後は満足そうな笑顔でグラウンドを去った。

 「野球はこんなゲームができるから幸せ。一生懸命に投げ切ったので悔いはない。延長十四回を楽しめた」。主将でエースの鎌田の言葉が、選手全員の気持ちを代弁しているかのようだった。

◇川越東、執念で192球の熱投

 激闘3時間28分、熱投192球。ゼロ行進が続くエース同士の絶対に譲れない戦いで自慢の左腕がうなりを上げた。一球一球に気迫を込め、川越東のエース高梨が延長14回を完封。足を痛め、試合後病院に直行した左腕は「みんなが絶対に点を取ってくれると信じていたので、全力で向かっていった」とコメントを残した。

 もともと力んで制球が甘くなるのが弱点だったが、序盤は力を抑え、直球中心に組み立てた。1年生からバッテリーを組む山田は「最初は直球で押し、変化球でかわす。延長からは気持ちで投げさせた」。

 絶体絶命のピンチは延長十一回の1死満塁。だが焦る様子はない。大久保を決め球のスライダーで空振り三振。続く原を中飛に打ち取り、勝ち越しを許さなかった。山田は「併殺も狙えたが、三振を取った方が高梨も乗ってくれる」。

 延長十四回、先頭打者として打席に立った。空振りした際に右ひざを痛めたが、打球を右前に運び、執念で一塁へ駆け抜けた。治療に7分かけたが走塁は無理と判断。臨時代走となり、サヨナラ勝ちはベンチ裏で知った。サヨナラ打の報告に来た捕手の山田には「ナイスバッティング」と笑顔で声を掛けたという。

 阿井監督は「両投手の投げ合いに圧倒され、感動した。同じ投手出身として敬意を表したい」と最大級の賛辞を送る。花咲徳栄へ“四度目の正直”を狙う準決勝での登板は微妙だが、エースは大会前に「もう一回やりたいと思っていた。花咲徳栄しか見ていない」と話していた。その言葉通り、リベンジへ最高の舞台を整えた。

埼玉新聞