熊商へ熱視線30年 球場通う84歳森山さん

 熊谷商の31年ぶりの甲子園出場はあと一歩で夢と消えた。昨年秋と春の大会でともに地区予選で敗退だったが、かつて“夏の熊商”と称され、古豪復活を予感させる快進撃はオールドファンを喜ばせた。スタンドから熱い視線を送っていた森山熊吉さん(84)もその一人。熊商の試合を30年にわたって見続けてきた。熊吉さんの悲願もまた来年に持ち越しとなった。

 熊吉さんは宮崎県小林市出身。小林高校時代は陸上部で活躍。都内で理容店を営んだ後、1953年に結婚して熊谷に引っ越した。息子の学さん(49)と娘のこずえさん(43)も熊谷商の卒業生だ。

 学さんは野球部OBだが、甲子園にはあと一歩届かなかった。学さんが在籍した当時はエースに鎗田英男投手(後に法政大−日本石油で活躍)がいたため学さんは控え投手。だが学さんは後に、プロ野球ロッテに入団し5年間プレーした実績を持つ。

 熊吉さんは学さんが同校卒業後も、熊谷商野球部の応援をずっと続けている。名前の熊吉に「熊」が入っていることも「何か縁も感じた」と照れくさそうに話す。同校での練習試合は必ず観戦。群馬や栃木など県外での練習試合にも友人の熊谷商ファンの車に乗って駆け付ける。一番遠くでは青森県黒石市まで行ったこともあるという。

 熊吉さんに今年の熊谷商のチーム状況を聞くと、「3番松本と5番小野が打ってきた。4番太田は練習試合で20本以上ホームランを打っているので、もっと当たりが出てくれば。投手の川崎は頑張っているが、もう1枚投手が欲しいね」と話が止まらない。チームをよく把握していて、特徴や課題をスラスラと語る。耳が少し遠くなってきたというが、9月で85歳になるとは思えないほど元気だ。

 今大会も熊谷商戦は初戦から準々決勝まで全てスタンドで観戦。春日部共栄戦に惜敗した25日も市営大宮球場に友人らと駆け付けた。一回に小野が満塁弾を放った際は、「やっぱり熊商は強い。今年はいける」と意気込んだが、九回にまさかのサヨナラ負け。だが試合後の気持ちは晴れやかだった。「いい試合だった。川崎もよく一人で投げ抜いた」と賛辞を送った。

 熊吉さんは熊谷商の全国大会出場に合わせ甲子園にこれまで3回応援に行った。もう一度、熊谷商が出場する甲子園に応援に行くのが夢。熊吉さんは「自分にとって熊谷商野球部は長生きの秘訣(ひけつ)。生きている間にもう一回甲子園に行きたいね。死ぬまで応援は続けるよ」としっかりとした足取りで球場を後にした。

埼玉新聞