けが乗り越えまとめ役に 坂戸西・須藤拓海選手

 「絶対に諦めるな! 気持ちで打て」。1−4の九回2死二塁。最後の打者が三邪飛に倒れると、一塁コーチャーズボックスからチームを鼓舞し続けた坂戸西の3年生・須藤拓海選手(18)はうなだれた。主将になる予定だったが、昨夏の新チーム発足日に学校の球技大会で骨折し、復帰後は控えの一塁手へ。それでも誰よりも声を出し、仲間に元気と勇気を与えてきた。最後は昨夏の覇者・花咲徳栄に惜敗したが、「周りに支えられ、野球を続けられた。心から感謝したい」と充実した表情を見せた。

 新チーム発足日の昨年7月12日に事故は起きた。バスケットボールの試合中に相手チームの選手と接触、右足大腿(だいたい)部を骨折。1カ月の入院を余儀なくされた。

 監督や仲間からの信頼は厚く、主将になるはずだった。中心となって新しいチームをつくり上げていこうという矢先のアクシデント。「みんなに迷惑を掛けてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。しばらくは何も考えられなかった」と当時の心境を吐露する。

 退院後はブランクを埋めようと必死だった。焦りもあった。しかし、足にはボルトが入ったまま。痛みも残り、思うように走れない。ようやくボールに触れられたのは半年後のことだ。「もう駄目かもしれない。野球をやめようかな」。何度も弱音を吐きそうになった。

 折れかけた心を救ったのは、チームメートからの励ましの言葉だった。「みんなから『おまえなら大丈夫』『一緒に頑張ろうぜ』と声を掛けられ、うれしかった。試合に出られなくても声を出してチームに貢献しようと、気持ちを入れ替えた」

 それからは今まで以上に声を張り上げ、味方の守備が終わるといち早くベンチを飛び出し、ナインとタッチを交わした。新たに設けられた“部長”という立場で学校内の他部との会議にも出席し、試合や練習以外でまとめ役を務めた。

 「何度も助けてもらった。チームにとって大きな存在」と湯川昌輝主将。野中祐之監督(48)は「常に選手側に付いて、仲間の話が聞ける選手」と評価する。

 須藤選手の全力を挙げてのサポートもあり、チームはAシードの南稜を破るなど快進撃を続けた。最後の夏を終えた須藤選手は「最高の仲間たちと明るく楽しく野球ができた。悔いはありません」と笑顔で3年間に思いをはせた。

埼玉新聞