全力対決 忘れない 川越東 高梨雄平投手

 無死満塁で投じた一球が「カンッ」という音とともにはじき返されると、ひざから崩れ落ちた。グラブを2度、グラウンドにたたきつけた。仲間から抱きかかえられても、なかなか立ち上がれない。すべてが終わり、何も考えられなかった。全力を出し尽くした。

 延長10回の死闘。川越東のエース高梨雄平(3年)は、夢中で投げた最後の一球の球種も覚えていなかった。ベンチに戻ってからも「ちっきしょー。なんでだよ」。何度も悔しがる声が響いた。

 花咲徳栄は昨秋、今春の県大会準決勝でいずれもコールド負けした相手だ。球場のベンチの壁にかけるベース形の絵馬の文字は「打倒花咲徳栄」。チームの合言葉になっていた。

 今大会、3回戦で昨夏の代表聖望学園に大差で勝ち、24日の準々決勝では強豪の春日部共栄を相手に延長14回を投げ抜いた。3試合で自責点はゼロ。だが、その延長14回、変化球を空振りした時に左ひざの靱帯(じんたい)を痛めた。

 「徳栄に勝ちたい」。翌日には「投げたい」と監督に伝えた。痛み止めを飲んでマウンドに上がったのは、5回から。直後の6回の攻撃では中前安打も放った。だが、少しずつ痛みが出てきた。「顔に出すと狙われる」と、時に笑顔を見せながら、気丈に投げ続けた。それでも、制球力、スピードにはかげりが出た。延長10回、ひざは限界だったが、気持ちだけで投げた。

 負けた悔しさは大きい。だが、「力と力で勝負できたのはうれしい。今日の試合を一生忘れない」。

朝日新聞埼玉版)