左腕の好投手、躍動 高校野球埼玉大会を振り返って

 159校がしのぎを削った埼玉大会が幕を閉じた。左腕の好投手に注目が集まる一方、昨夏より大幅に本塁打が増えた大会を、セオリー野球を貫いた本庄一が制した。

○注目左腕快投

 今大会は事前から好左腕に注目が集まった。

 和光・佐野泰雄投手(3年)は初戦でシード校の朝霞と対戦。最速142キロの直球と落差のある変化球で打者の打ち気をそらし散発7安打。敗れこそしたが、3回戦では13三振を奪った。

 もう一人の注目左腕、川越東の高梨雄平投手(同)は高速スライダーを武器に好投した。準々決勝の春日部共栄戦では延長14回を奪三振10、被安打8の力投を見せた。

 やはり左腕の富士見・清水一樹投手(同)が3回戦で1試合最多となる15三振を奪った。

 右腕では、浦和学院のエース阿部良亮投手(同)が5試合で46奪三振、5四死球と制球力のよさを発揮した。

本塁打が急増

 49本の本塁打が飛び出した。投手力が安定しない大会前半が多いのは例年通り。それでも昨夏の30本より19本増えた。大型スラッガーの呼び声高い選手はいなかったが、シャープな打撃を心がけるチームが目立った。最多は大宮東の6本。

 ただ、準々決勝以降は、浦和学院・小林賢剛選手(2年)の1本のみだった。

○犠打飛31築く

 優勝した本庄一は手堅い野球で勝ち上がった。8試合で記録した31の犠打と犠飛は、チームの特徴。単打で出た走者をしっかりと送った。背番号8の「エース」田村和麻投手(3年)は派手さはないが制球力のよさが際だった。基本に忠実なチームづくりで優勝したと言えそうだ。

朝日新聞埼玉版)

◇接戦、好ゲームに見応え 回顧 夏・高校野球県大会

 第92回全国高校野球選手権埼玉大会は、本庄一の2年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。優勝候補の双璧(そうへき)と目された浦和学院花咲徳栄を倒して頂点にたどり着いたのは、春の県大会地区予選で1回戦敗退したノーシードの伏兵だった。

 本庄一は、決勝を含む8試合でコールド勝ちが1試合もなかった。延長13回、辛くも2―1で逃げ切った1回戦の川越戦などいずれも接戦で、最大得点差は4。準々決勝以降の3試合を1人で投げ抜いた田村和を中心とする鍛えられた守りと、あらゆる手段で1点を取る勝負強さが目を引いた。

 花咲徳栄は、準決勝までの6試合すべてで2ケタ安打と自慢の集中打が光った。エース五明の不調を左腕・橋本がカバーし、準々決勝、準決勝では、1点差でしのぎ切る粘り強さも見せた。

 浦和学院は、エース阿部の投球が安定していた。準決勝は、4番の原をけがで欠いたのが響き、2年ぶりの甲子園出場はならなかった。川越東は、聖望学園春日部共栄といった強豪を連破して12年ぶりの4強進出。エースで4番の高梨が投打に奮闘した。

 今大会は、決勝戦を始め、準決勝の花咲徳栄―川越東、準々決勝の本庄一―市立川越、花咲徳栄西武台、川越東―春日部共栄など1点を争う好ゲームが多く、見応えがあった。一方で、投手にも打者にも超高校級と呼べる選手が見当たらなかった。粒ぞろいで、よく鍛えられている印象はあったが、やや迫力に欠けた。

(読売新聞埼玉版)

◇決勝戦を振り返り 花咲徳栄、敗因を分析

 159校が戦った第92回全国高校野球選手権埼玉大会は、本庄一の優勝で幕を閉じた。ノーシードだった本庄一に対し、敗れた花咲徳栄センバツ出場に加え今春の県大会も制していた。勝負の分かれ目はどこだったか。一夜明けた29日、監督や選手に話を聞いた。

○シード花咲徳栄、スライダー攻略できず 本庄一、後攻で精神的ゆとりも

◆狙い球

 「田村(和麻)君のスライダーを攻略できなかった」。花咲徳栄リードオフマン佐藤卓也君(3年)は試合後、自宅でビデオを再生しながら分析した。浦和学院を1点に抑えた準決勝で田村投手がスライダーを多投するのをスタンドから見ていた。決勝戦前、岩井隆監督からは「初球のスライダーを狙え」との指示が出た。

 一回表。初球はスライダーだったが、外角に外れてボール。2球目直球の後、3球目のスライダーを引っかけ三塁ゴロに倒れた。花咲徳栄は昨秋の県大会準々決勝で田村投手と対戦し4−3でサヨナラ勝ちしていた。佐藤君は「球速、キレ、制球、すべてが格段に上がっていた」と話す。

◆先発

 1点リードで迎えた七回。花咲徳栄の先発橋本祐樹君(3年)が先頭打者に死球を出した。前日延長十回を完投した疲労からだったが、岩井監督は動けなかった。右の中継ぎ松本晃岳君(2年)は6月のひじの故障から復帰できていなかった。「センバツで活躍した五明(大輔投手=3年)は不調。次に出せる投手がいなかった」と岩井監督は明かす。

 同点で迎えた九回表。花咲徳栄の3番打者、木村駿斗君(3年)が狙っていた田村投手の初球のスライダーを芯でとらえた。しかし一塁手が好捕。「これで運も失った」と岩井監督。流れは戻らなかった。

◆表と裏

 本庄一の須長三郎監督は試合前、後攻を取れと指示していた。サヨナラで敗れた昨秋の県大会は、本庄一が先攻、花咲徳栄が後攻だった。今大会も花咲徳栄西武台戦(11−10)、川越東戦(3−2)と1点差ゲームを制していたが、2試合とも後攻だった。

 試合前のジャンケンで葉梨裕佑主将(3年)は「グー」で勝つと迷わず後攻を選んだ。須長監督は「高校野球はちょっとした心の迷いや揺れで勝敗が分かれる。子供たちが一生懸命に楽しくできる野球を貫き通してくれればそれでいい」と甲子園を見据えた。

毎日新聞埼玉版)