花咲徳栄と本庄一が決勝へ 全国高校野球埼玉大会

 (27日・県営大宮)

 第15日は準決勝2試合が行われ、Aシード花咲徳栄とノーシードの本庄一が28日の決勝に駒を進めた。花咲徳栄は9年ぶり2度目、本庄一は2年ぶり3度目の進出。両校の決勝対決は初めて。

 花咲徳栄はBシード川越東に3―2でサヨナラ勝ち。同点で迎えた延長十回、英が遊撃強襲の内野安打を放ち、試合を決めた。先発の橋本は12安打を打たれながら、要所を締めて完投した。川越東は角野の二塁打で先制したが、3番手で登板したエースの高梨が最後に力尽きた。

 本庄一はAシード浦和学院に4―1で逆転勝ち。1点を追う六回に田尻と中沢の適時打で2点を奪った。投げては田村和が7安打を浴びるも連打を許さず、1失点に抑えた。浦和学院は石田の適時打で先制。2番手阿部も好投していたが、守備のミスが重なり崩れた。

 花咲徳栄は2001年以来9年ぶり2度目、本庄一は記念大会で2代表だった08年以来2年ぶり2度目の頂点に挑む。

 決勝は県営大宮で正午にプレーボール。

花咲徳栄、春夏連続へ王手

 ミスが出ても花咲徳栄はどっしりと構えていた。延長までもつれこむ接戦だったが、最後はAシードの貫禄を見せ、サヨナラ勝ち。岩井監督は「こういうゲームになると、うちらしさが出てくる」と納得の表情だった。

 「ミスは試合をしていれば必ず付いてくる」と指揮官。攻守でミスがあったが、取り乱すことなく全員でカバーした。

 1点を追う三回の攻撃で3番木村がセーフティースクイズを失敗。木村の悔しげな顔を見た4番金久保は「木村の分も絶対打つ」と打席に立ち、同点タイムリーを放った。

 八回の守備では2死一、三塁からゴロを処理した遊撃手佐藤の送球を一塁手の英が落球し、勝ち越された。ベンチで悔し泣きする英の姿を見て、チームは動揺するどころか一丸となった。

 延長十回裏。「英に打たせよう」と川越東のエース高梨を攻め立てる。先頭の金久保が死球で出塁すると、5番橋本の送りバントが内野安打に。続く木内の犠打が失策を誘い無死満塁とし、英に打順が回ってきた。

 英は「みんなに迷惑を掛けた。返したい」。強烈な打球が遊撃手のグラブをはじくと、悔し涙が笑顔に変わった。佐藤は「エラーでチームがまとまった」と胸を張った。

 苦しみながらも決勝の舞台へ進んだ。主将の根建は「決勝も2時間前後の試合に集中するだけ」と気負いはない。「あの舞台に戻ろう」を合言葉に、第1シードの重圧と戦いながらも春夏連続の甲子園へ、花咲徳栄が王手をかけた。

◇川越東「打倒・徳栄」を合言葉で成長

 サヨナラ負けの瞬間、左腕高梨はマウンドで泣き崩れた。仲間に抱き上げられた悲運のエース。そのユニホームは泥だらけだった。

 左ひざは痛みで震えていた。延長14回、192球を投げ抜いた準々決勝の春日部共栄戦で、十四回の打席で空振りした際、左脚をひねり、ひざを痛めた。試合後は病院へ直行。中2日で迎えたこの日は、痛み止めの薬を飲んで臨んだ。

 阿井監督は「(高梨は)きょうの登板は無理かと思った」と素直に明かす。エースで4番で主将。まさに大黒柱はベンチスタート。それでも五回のピンチに背番号1はマウンドに立ち、チームを救った。

 しかし、投球時の軸足は投げるたびに悲鳴を上げた。自慢の制球と球威が微妙に狂った。

 迎えた延長十回無死一塁、花咲徳栄・橋本の犠打が一塁寄り小飛球となり、果敢にダイブ。グラブに触れたが捕球できず内野安打に。続く木内が今度は三塁手前に犠打を転がし、一塁に悪送球してしまった。犠打処理に追われ、痛みに顔がゆがんだ。高梨は「バントで揺さぶってくるのは分かっていた。表情に出たのは自分の弱さ」。

 無死満塁、足を引きずりながら気迫の投球。しかし無情にも打球は遊撃手猿田のグラブをはじいた。

 過去3戦はいずれもコールド負け。「打倒・徳栄」を合言葉にチームは成長した。今回は紙一重の勝負を演じ敗れはしたが、「きょうはがっぷり四つに組んで勝負ができた。今までの徳栄戦でいちばん良かった」と背番号1。悔しさの果てに充実感が見え隠れしていた。

本庄一、“常笑”野球で快進撃

 捨て身のノーシードが、ついに決勝までのし上がった。脅威の粘りで、ともに2年前に甲子園に出場した浦和学院を撃破。優勝本命の一角を引きずり下ろした須長監督は、「うちは“根性第一”ですから」と舌好調。校名に引っ掛けたジョークまで飛び出した。

 底抜けに明るく、楽しそう。掲げる「常笑野球」を地でいく天真らんまんさ。そこが接戦を勝ち上がったチームの強み。逆に今大会初の接戦に縮こまるライバル。「この展開に浦和学院は絶対にミスをすると思っていた」と指揮官。しぶとくゴロを転がし、どっしりと構えて来るべきときに備えた。

 1点を追う六回、待ちに待った瞬間が訪れた。敵失から先頭打者谷本が出塁。二盗を仕掛けると、敵失を呼び込んで三塁へ。焦った相手エース阿部の球は、次第に甘くなり始めた。

 ここを逃すはずはない。続く田村和が内野安打。田尻が左前適時打で追い打ちを掛けて同点とし、中沢が右前に勝ち越し打。関東王者のリズムを完全に崩した。

 三回から浦和学院の焦りを感じ取ったという主将の葉梨は、「打席では引っ張ることだけ考えた」と単純明快。バッテリーを組む田村和とは内角中心で打者を翻弄した。

 「相手がこれまで打っているのは外角中心。本塁打を打たれてもいいと内角を試した」と葉梨。投球テンポにも工夫を凝らす積極投球で、相手得点源を不発に追い込んだ。

 春季大会は地区1回戦で敗退した。葉梨は「田村和に頼りきりだった。落ち込む田村和を見てチームが変わった」と言う。須長監督に田村和が怒られれば、それはチーム全体の責任。「意識が一つになって強くなった」と葉梨は胸を張った。

 2年前に味わった歓喜まであと1勝。須長監督は、「銀メダルでいいや」。本当か、うそか。決勝を見れば答えが分かる。

◇優勝候補らしくない姿 焦りでミス連発

 浦和学院らしさはどこへ行ったのか。ミスと焦りの連鎖で自滅。「ここで負けるようなチームではなかった。とても悔しい」と森監督はショックを隠し切れない。春の関東大会を2連覇した優勝候補の本命が準決勝で姿を消した。

 三回、石田のタイムリーで先制したところまでは良かった。三回に先発南から継投した阿部も好投を続けていたが、思わぬミスが出てしまった。六回、失策で出した走者に走られ、悪送球で三塁まで進まれた。その後3安打で逆転を許した。

 「絶対走ると思って警戒していたが、二遊間との連係が取れなかった」と捕手久保。指揮官は「最後にばたばたミスが続いた。焦りがあったと思う」と首をかしげる

 打線は本庄一の田村和を捕らえるものの、打球が野手の正面を突くなど崩せなかった。3番星は「気合が入って、いい投手だった」と認めた。

 絶対に勝ちたい理由があった。準々決勝で主砲原がレフトの守備で打球を追ってフェンスに激突し、左ひざを亀裂骨折した。翌日に入院し、この日手術を受けた。背番号7のユニホームがベンチに飾られ、普段から仲が良い萩原大は「絶対に甲子園に出させてやりたかった」と涙した。

 森監督は「春に強いチームは夏も強い」と自信を示してきた。県大会決勝で花咲徳栄に敗戦後、関東大会では5試合中3試合で逆転勝ちし、勝負強さを見せた。久保も「自分たちの代で甲子園に行って勝つ」と全国での活躍を見据えていた。

 だが昨年に続き、関東王者は県大会で夢破れた。前年甲子園を逃すと必ず翌年はリベンジしてきた。浦和学院が2年連続で優勝を逃したのは1998年以来、12年ぶりだ。

埼玉新聞