聖望学園、初戦敗退 都城商に1−5 序盤の失点重く

 第91回全国高校野球選手権大会第4日は13日、甲子園球場で1回戦4試合が行われ、6年ぶり3度目出場の聖望学園は1−5で都城商(宮崎)に敗れた。聖望学園が初戦敗退を喫したのは、初出場した1999年の第81回大会以来、10年ぶり2度目。

 埼玉大会では昨夏の甲子園出場校2校を破るなど、接戦を勝ち上がってきた聖望学園。28年ぶり2度目の出場となった都城商との一戦には、約4万人の大観衆が詰め掛けた。

 聖望学園は先発佐藤が誤算だった。ボールが高めに浮いた立ち上がりを攻められ、一回に二つの四死球と3本の長短打で4失点。三回にも3安打を集められ、1点を追加された。四回以降は立ち直ったが、三回までに8安打を浴びた投球が悔やまれた。

 打線は相手先発・新西の前に七回までわずか1安打。2番手の藤本を攻め、九回2死二塁から西村が右前適時打を放って1点を返したが、反撃が遅過ぎた。

 全国の壁は厚かった。岡本監督は「一回の4点が重かった。佐藤があんなに力むとは思わなかった」と一回の守りを悔やむ。それでも、意地で1点を返したのは立派だ。同監督も「少し粘れたのはよかった」と評価していた。

【戦評】

 序盤に失点した聖望学園は試合の流れを呼び戻せなかった。佐藤が制球の悪い立ち上がりを攻められ、三回までに5失点。打線も的を絞れず、九回に1点を返すのが精いっぱいだった。

 先発佐藤は一回2死一、三塁から左前適時打を打たれて先制点を献上。さらに満塁から、走者一掃となる左中間適時二塁打を浴びて、計4失点した。三回には二死一、三塁から、左前適時打で1点を追加された。

 九回二死二塁から西村の右前適時打で1点を返したが、2投手の継投に4安打に封じられた。

◇リズム崩し涙

 祈るように手を組み、ベンチから仲間を見守った。八回途中で降板したエース佐藤。「最後まで投げ切りたかった」と大きな目に涙を浮かべた。

 昨春の選抜大会に続いて2度目のマウンド。誰よりも甲子園慣れしていたはず。だが、一回先頭打者に与えた死球からリズムを崩した。2死満塁から走者一掃の二塁打を喫するなど、4失点。中盤から立ち直ったものの、「自分が引っ張らないといけなかったが、立ち上がりからチームに迷惑を掛けてしまった」と肩を落とした。「春と夏は雰囲気が全然違った」。あふれる思いを必死にこらえた。

◇焦り、慢心…歯車狂う

 甲子園の魔物にのみ込まれたのか。一回の4失点がすべてを乱した。埼玉大会7試合中5試合が中盤までに得点しての先行逃げ切り。岡本監督は「この展開は予想していなかった」。初めての出来事へ対応できなかった。

 「思いっ切り振られたら怖い」「立ち上がりがすごく大事」。岡本監督の不安が的中した。ファーストストライクから積極的に振りにくる相手打線。一回、佐藤が死球で先頭打者を出塁させると、2死一、三塁から3連打で4失点を喫した。

 エース佐藤は球が高めに浮き、甘く入っては痛打された。佐藤は「打ち損じがなかった。県内にはいなかった」と全国の力に圧倒された。「逃げ腰になった」と悔やんだ。 都城商の左右の好投手を前にバスター攻撃も歯が立たず。「打力のあるチームではないから、失点を抑えて足で得点につなげたかった」と岡本監督。チーム初ヒットを放った山崎力は「宮崎大会のビデオとは全然違った」と完敗を認めた。

 チームは「埼玉の頂点」が目標だった。達成できたことで「目標を見失ってしまった」と城戸。喜びに浸り、新たな指標を見つけられない中での甲子園入り。まとまらない気持ちのままでは、全国の壁は破れなかった。4回以降は無失点。終盤は好守備も連発、九回には1点を返す粘りも見せた。主将の子安は、「後輩には(昨春の選抜大会)準優勝以上のもの(優勝)を取ってきてほしい」と思いを託した。

◇留守部隊からも思わずため息

 一回の大量得点が最後まで響き、九回裏に1点を得点したが、万事休す。留守部隊からは思わずため息が出た。

 この日、聖望学園の生徒約500人は大型バス13台に分乗して、甲子園に向かった。バスケット部やハンドベル部の留守部隊や教職員、OB、近所の人約50人が同校礼拝堂に集まり、大画面のテレビ観戦で応援した。しかし、一回、三回に都城商がエース佐藤投手の甘い球をとらえて大量5点を得点、反撃のチャンスをつくれないまま敗退した。

 1年のバスケット部員西田昌輝君(16)や2年のハンドベル部員の新藤真伊さん(16)は「初回、佐藤投手の調子が悪かった。残念だが、次は頑張ってほしい」と期待した。2年のバスケット部員三浦翔一君(17)も「前半は調子が悪かったが、後半になって調子を上げてきて、いい試合だったのに・・・」と残念な様子。

 OBで近所に住む主婦渡辺あやかさん(31)は「初回の大量失点やエラーが出るなど、地道につなげて守り抜く聖望学園らしくない試合だった」と述べ、「甲子園だから上がってしまったのかな」と首をひねった。

 馬場直樹教頭は「残念だが、選手はよく頑張ってくれた」とねぎらい、応援した市民に感謝していた。

埼玉新聞

◇ダンス部 チアに変身

 聖望学園は応援部がなく、埼玉大会前からダンス部員約20人がチアリーダーに変身。放課後に1、2時間の練習を続けて準備してきた。普段の活動はヒップホップやブレイクダンスなどだが、この日は黄色と青色のユニホームで、「ルパン三世のテーマ」や「宇宙戦艦ヤマト」など20曲にあわせて踊りを披露。部長の椛沢ちひろさん(16)は「普段と違ってチアは笑顔が大切。球場との一体感が最高で、自然に笑顔になります」。

◇骨折克服完全燃焼 山崎力選手(3年)

 三回の初打席、2球目に来た外角低めの変化球を振り抜き、左方向へ痛烈にはじき返した。待望のチーム初安打に、一塁上で手をたたいて喜んだ。

 3月上旬の練習中、チームメートの投げた球で顔面を骨折。約1か月の入院を経て復帰したが、守備位置に球が飛んでくると無意識に体を反らしてしまっていた。「また当たるんじゃないか」。4月末に出場した春の県大会では、打席に立つと腰が引け、満足な打撃が出来なかった。

 「このままじゃだめだ」。5月中旬まで剣道用の面をかぶってノックを受け、顔面近くの球をバントする練習を繰り返し、恐怖心と闘った。仲間たちが「怖がるなよ、リキなら大丈夫だぞ」と励ましてくれた。埼玉大会に臨む頃にはプレーに持ち前の積極性が戻っていた。

 あこがれの大舞台、抱えていた球への恐怖心はすっかり消え去っていた。「全打席、しっかり振ってきました」。全力を出し切れたことにすがすがしい表情を浮かべた。

◇後輩たちを 側面支援 野球部OB安藤雅広さん

 「再び来た甲子園。懐かしくて涙が出そう」。現在、北海道の短大1年で野球も続けている。昨年春の選抜で準優勝したチームでは背番号12。控えの捕手だった。

 昨年5月にじん帯を切り、夏の埼玉大会にはベンチ入りできなかった。苦しい思いもしたが、後輩たちへのアドバイスなど、チームを側面から支援。今年のエース、佐藤勇吾投手の腕が回らず、悩んでいた時には「プレッシャーに負けずに思い切り投げてみろ」と励ましたという。

 グラウンドの後輩たちに「自分たちの思いをかなえてくれてうれしい。とくに佐藤は大きく成長した」と目を細めた。

(読売新聞埼玉版)

◇監督・選手コメント

聖望学園・子安史浩主将
 試合が始まった時から焦りがあって、周りが見えなくなっていた。初回を守りきれず、自分たちの弱さが出てしまった。相手投手が変化球を低めに集めてきて、打つことができなかった。

聖望学園・岡本幹成監督
 こういう展開は予想しておらず、浮足立ってしまいました。初回の4点が重荷になったし、逆に相手にはいい投球をさせてしまった。埼玉大会で出なかった弱い部分が出た。これが甲子園なのかな。

都城商・冨永圭太主将
 佐藤君はいい投手だったが、宮崎代表のプライドがあり、負けるわけにはいかなかった。1回に4点取れたことで緊張がほぐれた。送球ミスや残塁の多さなどの反省点を次の試合に生かしたい。

都城商・河野真一監督
 左腕エース対策の、球を胸元に引きつけて逆方向に打つ練習が功を奏した。競る展開を予想していたが、1回から思いきり打ってくれた。28年ぶりの甲子園での勝利。選手たちは本当に頑張ってくれた。

◎選手コメント ()内の数字は背番号

(2)河合賢人選手
 (8回の安打は)何とか出塁しようと、食らいついていった。最後を甲子園で終われてよかった。

(3)山崎力選手
 3回にチーム初安打を打ててよかった。先制される展開で、相手投手に打たされてしまった。

(5)小島尚幸選手
 最初に点を取られてから、自分たちのペースに持っていけなかった。みんなと野球をやれてよかった。

(7)城戸愉快選手
 最後まで楽しくやらせてもらった。高校生最後の打席はフルスイングできた。思い切ってできてよかった。

(8)本所宏章選手
 甲子園の舞台は広くて、観客の数も多く圧倒された。その中でやれてうれしかったからこそ、もっと長くやりたかった。

(9)佐々木健介選手
 野球を始めたときから、ここを目指してやってきた。聖望で野球をやれて、甲子園に来られて本当によかった。

(10)信田真典選手
 甲子園だからという意識はなく、抑えないとリズムがでないと思って必死に投げた。最後なんで出来は100点。

(11)山崎敦至選手
 甲子園は声援で体が地面から揺れた。(好捕は)最後だと思い全力で走った。夢中すぎて歓声も聞こえなかった。

(12)大野直哉選手
 負けたのは悔しいけど、最後まであきらめずに、いつも通りのプレーができたことに悔いはない。

(13)早川怜佑選手
 小中学校とテレビで見ていた舞台。準備は万端で代打を言われた時、緊張せずに打席に入れた。気持ち良くできた。

(14)川崎優人選手
 欲を言えば勝ちたかった。緊張していた勇吾(佐藤投手)には、伝令の時に「楽しんで投げろ」と笑顔で声を掛けることができた。

(15)下村暢宏選手
 3年間、きつい練習もみんなで楽しくできたのはいい経験。その結果として甲子園に来られて、みんなに感謝したい。

(16)島崎啓太選手
 勝ちたかった。埼玉大会はきつかったが部員一丸となって勝ち進んでここに来た。この舞台で野球ができたことは幸せ。

(17)永田智大選手
 夢の舞台はこれまでの球場とは全然違った。ビッグイニングで突き放され、相手の好投手を打てなかったのは悔しい。

(18)片岡建人選手
 球場の雰囲気にのまれた。甲子園の土を踏んだ経験を他の部員に伝え、来年は自分が引っ張って戻ってくる。絶対勝つ。

朝日新聞埼玉版)