春と夏では雰囲気違った 聖望学園・3年、佐藤勇吾投手

 調子は悪くなかった。試合前日の練習ではメニューを自分で考えた。岡本監督は「自信がなければできないこと」と話した。しかし、埼玉大会で強豪校を次々と倒す原動力でもあった打者に向かっていく強い気持ちは見られなかった。

 144キロの直球とカットボールを決め球にセンバツ準優勝の原動力になった大塚椋司投手の引退後、エースを任された。しかし、すぐには結果が出なかった。冬に必死に走り込みをして、体を鍛え直し、スライダーやシュートなど球種も増やした。夏を前に成果が現れ、練習試合も6月から勝ち始めた。「すぐに崩れなくなった」と精神面も成長した。

 心身ともに充実して臨んだ大舞台。昨春のセンバツ勝戦でも登板しており、甲子園の空気はわかっているはずだった。だが、魔物がいた。「春と夏では雰囲気が全然違った」。立ち上がりの緊張が解けた四回以降は、打たせて取る投球がさえわたったが、遅かった。

 試合後、「自分がチームを引っ張らなきゃいけない存在なのに、迷惑をかけてしまった」と目に涙を浮かべた。全員野球で勝ち上がってきた聖望学園。「もうちょっとみんなで試合をしたかった」。最後につぶやいた。

毎日新聞埼玉版)

◇仲間の信頼・感謝に涙

 克服したはずの課題が、大舞台で顔を出してしまった。

 「自分が引っ張らなければならないのに……。みんなに申し訳ない」。試合後、汗と涙をぬぐいもせずに、聖望学園のエース佐藤勇吾(3年)は、声を絞り出した。

 1回、先頭打者にいきなり死球。埼玉大会での安定した投球は「内角へ思い切って投げられるようになった」と自信をつけたからだった。それが「あの死球で焦った。いいコースに投げようと、ボールを置きにいってしまった」。腕の振りが鈍くなったところを痛打され、4点を失った。

 もともと、立ち上がりは苦手だった。埼玉大会から、試合前に50球程度を投げ込むようにすることで、制球力を高めて臨めるようになった。

 だが、この日は室内練習場のブルペンが前の試合が終わるまで使えず、キャッチボールをした程度で臨んだ。その結果、「球が高く浮いてしまった」。

 「うちは佐藤のチーム」と全幅の信頼を置く監督の岡本幹成(48)が「どうしようもなかった。これも甲子園なのかな」と首をかしげるほど、埼玉大会で見せた安定感がなくなっていた。

 埼玉大会のチーム打率は2割4分2厘で、決して高くない。小技を駆使して得点し、佐藤の力投で守り勝つのが、今年のチームの特徴だ。140キロ超の速球を誇る相手投手を前に、初回の大量失点は致命的だった。

 それでも佐藤は、何とか持ち直した。ピンチでも笑顔を絶やさないのがチームの持ち味。何度か円陣を組み、仲間の笑顔に励まされた。4回以降は、本来の粘りの投球を見せ、8回途中に交代するまで1点も与えなかった。

 試合後の整列では笑顔を保ったが、ベンチへ戻る途中で目頭を押さえた。その背中に仲間たちから「お疲れさん」「ありがとうな」と声が飛んだ。「全員野球でここまで勝ち上がってこられて、うれしかった」と感謝した。

朝日新聞埼玉版)