響いた単調な攻撃 中村投手、秘めた悔しさはプロの舞台で 春日部共栄

 九回2死一、二塁、スコアは1−2。一打出れば同点の場面で、8番阿部の力ない飛球は、一塁手のミットに静かに吸い込まれた。勝利に沸く三塁側とは対照的に、うつむいて整列するナイン。大会ナンバーワン右腕の中村を擁する春日部共栄の夏が終わった。

 大黒柱の負傷が誤算だった。中村が三回の打席でバントをした際、腰に痛みを感じ、治療を受けた。「痛みが引かなかったけど、こらえて投げた」とエース。本多監督も「こんなのは初めて」と話すアクシデントを乗り越え、三回以降はゼロを並べる粘りを見せた。

 だが、打線の援護がない。埼玉栄の繰り出す右腕島野、左腕芹沢の前に7安打で1点止まり。本多監督は「先発を早く降ろしたかった。五回まで投げさせたのが敗因」と分析。チーム唯一の得点をたたき出した主将の柳川も、「島野はスライダーが切れていた」と想像以上の様子。バントなどで積極的に揺さぶりを掛ける相手打線とは逆に淡白な攻めも目立った。

 「うちは打たせるチーム。思い切っていった結果だから仕方ない」と指揮官。柳川は「相手がいいところに投げていた。力負けです」と認めるが、エースの頑張りを見ればもっと工夫が欲しかった。「打ってほしかったけどしょうがない。それが勝負」と中村。チームはエース頼みを脱却できなかった。

埼玉新聞

◇大会初2失点エース痛恨 春日部共栄・中村投手

 許した長打は2本だけ。しかし、それが埼玉栄の先制打と決勝打になってしまった。

 プロのスカウトからも注目されていた春日部共栄のエース中村勝(3年)。高校での「甲子園デビュー」は、かなわなかった。

 1回裏1死二塁。自慢の直球が、やや高めに入った。3番打者の栗原明裕(同)に左中間へはじき返され、今大会初の失点を許した。2回には塩田将和(同)に本塁打を浴びた。

 不運にも襲われた。3回表1死一塁で、送りバントを試みた。一塁へ走る最中、「ピキン」と腰に激痛が走った。ぎっくり腰だった。痛みは治まらず、治療を受けた。

 しかし、そこからエースの本領を発揮した。140キロ超を誇る速球で押すつもりだったが、痛みに加え、直球を狙われていることに気付き、変化球を中心に配球を変えた。いつもの躍動感は影を潜めたが、打たせてとる投球で、追加点を許さなかった。「中村は絶対的なエース」と、監督の本多利治(51)からも、最後までマウンドを託された。

 9回表2死一、二塁。一打同点、長打が出れば逆転という場面で、次打者席に入った。しゃがみながら戦況を見つめ、「自分のところに回ってこい」と念じた。だが、目の前で試合が終わった。

 「球はいつも通り走っていたけど、直球を狙われた。みんなで甲子園に行きたかった」。試合後、うつむきながら序盤の失点を悔やんだ。

 「プロで試したい」

 卒業後の目標を、そう語った。

朝日新聞埼玉版)

◇秘めた悔しさはプロの舞台で 春日部共栄3年・中村勝投手

 大会ナンバーワン右腕はネクストバッターズサークルで敗北のときを迎えると、わずかに笑みを浮かべた。「最後は笑って終わりたかったので」

 蓄積した疲労がエースの輝きを失わせていた。一回、自己最速143キロを誇る直球を狙われ適時二塁打を浴び、今大会初失点。二回にも直球を痛打されソロ本塁打を被弾した。

 アクシデントに襲われたのは三回の打席。犠打を決めると、腰に痛みを覚えた。「ピキッときた」

 マウンド上での躍動感は消え、こだわってきた奪三振はわずかに3。マネジャーお手製のお守りには頂点を意味する「1」を縫い込んでもらったが、届かなかった。「やり切った気持ちが大きい」。敗戦後、ベンチ裏で語った言葉にはかすかに悔しさが透けていた。

 その素材には、プロも注目している。スタンドから観戦した巨人の大森剛スカウトは「ヒジの柔らかさは天性のもの。ドラフトの対象になる」と断言する。

 本人も卒業後プロの世界に飛び込むつもりだ。「今日みたいに直球を狙われても打たれない投手になりたい」。ちらりとのぞかせた無念は、プロの舞台で晴らす。

産経新聞埼玉版)

◇応援にこたえ 春日部共栄・柳川主将

 4回表2死。次打者席で待っていた春日部共栄の柳川淳主将(3年)の瞳に、観客席で黄色いメガホンを振りかざしながら声援を送る応援団の姿が映った。

 エース中村勝投手(同)が序盤で2点を失い、腰を痛めるという災難に見舞われていた。「こんなに応援してくれている人がいるんだ」と胸が熱くなった。

 池内伸晃選手(2年)の左前安打を見届け、打席に入った。甘く入った直球をはじき返し、左中間を破った。1点差に迫る適時二塁打となり、反撃ムードを高めた。「応援してくれた仲間が打たせてくれた」と感謝した。

 春の県大会では武蔵越生に1安打で完封された。約20年ぶりに朝の練習を復活させ、バットを振る時間を増やしてきた。今大会では、打線も好調だった。

 柳川主将は9回、無死から出た走者を送りバントで進め、同点機を演出。さらに四球で1死一、二塁となり、逆転の好機につながった。しかし、あと1本が出なかった。

 「つらい時でも笑いの絶えない、いいチームだった」と涙があふれた。

◇応援席も外野も大入り 共栄、1000人集合し大きなエール

 久しぶりの快晴の日曜日に加え、Aシード校と大会屈指の好投手との対決という好カードが重なった第1試合は、約1万7千人の観客でにぎわった。県高野連によると、通常は決勝戦しか使われない外野の芝生席が、準々決勝の段階で初めて開放された。

 一塁側の春日部共栄の応援席は、学年応援として2年生がほぼ全員集合。他の学年や父母らも合わせて約千人が声援を送った。宇田川正雄教頭(53)は「例年は応援を呼びかけても、これほど集まらない。今年のチームは投打のバランスが取れていて、注目されているのでは」。

 チームは好試合を演じたが惜敗。決勝戦で予定していた全校応援はかなわなかった。

朝日新聞埼玉版)