「自信のある直球で」 大宮東・古谷投手、勝負貫く

春日部共栄4―3大宮東)

 3―3で迎えた9回表。大宮東の先発、古谷敦裕(3年)は「負けたくない」と気持ちが高まっていた。指に力が入りすぎ球がひっかかった。先頭打者に死球、犠打と単打で1死一、三塁。

 一塁側の応援席を眺めながら腕を大きく広げ、息を吐いた。「アツ、がんばれ!」と声を張り上げる仲間たちの顔を見て、気持ちを落ち着かせようとした。

 春日部共栄が直球を狙っているのは気づいていた。それでも、「自信のある直球で勝負したい」。腕を大きく振って真っ向勝負。だが、ライナー性の当たりは左前に飛び、勝ち越しを許した。

 背番号は11。「エース番号じゃなくて悔しかったけど、チームが勝てばいい」。エースが大会前に目を負傷し、ここまで3試合を1人で投げ抜いていた。

 私立からの誘いを断り、伝統のある県立校で甲子園を目指したいと、大宮東に進んだ。

 練習はきつかった。1日最低5キロのランニング、うさぎ跳び、肩車をしてのランニング……。投手専用の練習メニューは、冬のオフシーズンに連日続く。最後まで逃げ出さなかったのは「仲間がいたから」だ。

 9回裏の攻撃、夏を終わらせてたまるかと、先頭の打席に入った。「絶対に塁に出て勝つ」。ぼてぼての遊ゴロだったが、一塁にヘッドスライディング、内野安打になった。

 試合後、真っ黒くなったユニホーム姿で記念写真に納まった。「みんなのおかげで、ここまで来られた」

◇ほろ苦投手デビュー、飛躍誓う

 それまでの2打席を内野ゴロで凡退していた。

 6回表2死一、二塁。松山の金子章太郎は「絶対に負けたくない」との思いをバットに伝えた。打球は三遊間を破った。二塁走者が本塁を狙ったが、タッチアウト。0―4のスコアは変わらなかった。金子は「セーフかと思ったけれど」と悔しがった。

 今大会、選手登録と同じ一塁手として2試合に先発。この日は先発投手として初めてマウンドへ。継投策を練った滝島達也監督から前日に先発を告げられていた。

 「予想外でびっくりしたが、緊張しなかった」。むしろ、燃えた。昌平が同じ1年生の広橋希を先発で起用してきたからだ。

 だが、立ち上がりを狙われ、3回途中まで長短打4本を浴び、2失点で降板。ほろ苦い投手デビューとなった。

 第一歩を踏み出したばかり。「こいつがいれば大丈夫だ、という存在になりたい」という。7回を無失点に抑えた広橋について、「これからも、一度は対戦するだろう相手。借りは返さないと終われない」と言い、飛躍を誓った。

 最後の夏を終えた3年生には「自分を助けてくれ、思い切り野球をできる環境をつくってくれた」と感謝した。

◇代打で存在感、見事に適時打

 1対1で迎えた8回裏1死二塁、川越東が好機を作る。打席には、代打中村雅治(2年)が送られた。マウンドの栄北、高橋和也(2年)が投げた初球のカーブは外れて、ボール。「2球目は直球でストライクを取りにくるはず」。ファーストストライクを思い切り振り抜いた打球は、中前へ抜け、勝ち越しの適時打になった。普段はおとなしい性格だが、思わず二塁上でガッツポーズをした。

 4回の時点で、阿井英二郎監督から「代打の準備をしておけ」と言われた。ベンチ裏でバットを振り続ける一方で、ベンチに戻って高橋の配球をじっくりと見た。「ストレートとカーブで緩急をつけている」と。その読みが、決勝点を呼び込んだ。

朝日新聞埼玉版)