決め球狙い雪辱 140キロマシン特打が実る 埼玉栄

 「打倒・共栄」「打倒・エース中村」。埼玉栄のナインは最初から闘志むき出し。「とにかく攻撃的に行った」と主将の林。中村の直球に的を絞り、打ち、しぶとく4強入りを果たした。

 昨年の県大会準々決勝でも顔を合わせ、4−6で惜敗した。その後、関東ナンバーワン右腕に成長した中村への雪辱のチャンス。この巡り合わせで燃えないはずがない。同じエースナンバーを背負う埼玉栄の芹沢は「勝ちたい」と対戦が決まってすぐに雪辱を誓った。

 中村の決め球である直球を狙った。バットをコンパクトに振り、トップの位置を早くつくることに集中。立ち上がりから揺さぶった。

 作戦は成功。制球が乱れ、甘く入った直球を一回は栗原が左中間適時二塁打、二回は塩田が左翼に本塁打をたたき込んだ。

 「追い込まれる前に打ちに行こうとチームで心掛けた」と林。同じ投手の島野は、「自信のある球を打たれると精神的にくる」。細淵監督も「打てないと思っていたのに打ってくれた」と今大会一番の笑顔を見せた。

 後は切り札、右左の柱の継投という「勝利の方程式」で守るだけだった。テンポの良い投球の島野、独特の間合いで投げる芹沢。内角を強気に攻めて、7安打1失点で相手打線を封じ込めた。

 4年前の決勝で大逆転劇を演じられた相手に今度は1点差で勝利。2度目の甲子園を阻んだ最大の難敵を下した。投打のリズムもいい。でも林は「気持ちをリセットして一戦集中」。試合同様、気持ちも無失策で11年ぶりの頂点を目指す。

埼玉新聞

◇140キロマシン 特打が実る

 埼玉栄は前戦までと打順を変え、1番から6番までズラリと左打者を並べた。前日の練習では、140キロに設定したマシンを近距離で打ち込んだ。いずれも春日部共栄・中村を攻略するためだった。

 初回、3番の栗原明裕(3年)は「(中村の)球が走っていなかったので積極的にいった」。外角高めに浮いた2球目のストレートを左中間へはじき返し、先制二塁打。二回には、相手の目先を変えるように右打席に入った7番の塩田将和(3年)が、「ドンピシャだった」という公式戦初本塁打を左翼席へ。これが決勝点となった。

 細淵守男監督は「直球を狙えという指示通り、栗原と塩田がよく打った」。大会序盤は辛勝が続いた優勝候補。ようやくエンジン全開か――。

(読売新聞埼玉版)

◇公式戦初の本塁打

 二回裏、春日部共栄のエース中村勝投手(3年)の真ん中に入った直球を、埼玉栄の塩田将和選手(3年)は真しんでとらえ、左翼スタンドに運んだ。昨秋の県大会でも中村投手から二塁打を放っており「苦手意識はなかった」。さらに試合の2日前から中村投手の速球に備え、140キロに設定したピッチングマシンで練習してきた。

 1年の6月に打球が顔面に当たり、手術を含め2カ月入院したことがある。「当たり所が悪かったらと思うと、野球ができるだけでうれしい」。本塁打は公式戦初。ホームランボールを「心配をかけた両親に渡す」と、ぼろぼろになったバッグにしまった。

毎日新聞埼玉版)

千羽鶴で思い一つに 選手と父母を橋渡し 埼玉栄・駒井マネジャー

 埼玉栄のスタンドに野球をモチーフにした一風変わった千羽鶴が掲げられた。ベンチとスタンドの思いを一つにする象徴だ。野球部のマネジャーが橋渡し役となって作った。父母も選手もこの千羽鶴を甲子園に持って行こうと意欲に燃えている。

 アイデアを出したのは、同部マネジャーの駒井克年君(17)と母の洋子さん(47)。2人のアイデアを元に今年3月から野球部の父母が形にしていった。校章を描いた大球の先には、父母が選手への思いを書いて折った5千羽の千羽鶴がつり下げられており、鶴の先端には選手26人と指導者ら4人の名前を書いた30球の小球が付いている。

 26球の小球は、駒井君が父母と選手の橋渡し役となって、選手たちに名前を書くよう手渡した。「選手たちを喜ばせたい」という思いからどんな形になるのか選手たちには秘密だった。

 6月の激励会で千羽鶴をお披露目した。選手たちは、「すごい。これを持って頑張りたい」と父母に感謝した。夏を前に選手と父母の気持ちが近くなった瞬間だった。

 「ベンチとスタンドが一体になりたい」とアイデアを出した駒井君は、小学2年の時に野球を始めた。埼玉栄中で投手として活躍したが、高校1年の時に肩を壊し、野球を続けることを断念した。「どうしても野球に携わりたい」。最初は監督の手伝いをしていたが、今ではチームをまとめる裏方の中心になった。試合を終えて駒井君は、「素直にうれしい。次の試合も全力で立ち向かいたい」とさわやかな笑顔を見せた。

 この千羽鶴と26球は、3年生が卒業する時、形を変え、選手からそれぞれの父母へ感謝の思いを込めてプレゼントされる予定だという。

埼玉新聞