仲間信頼し大舞台へ 花咲徳栄・北川大翔投手

 本塁打を含む被安打10で、七回まで投げて交代した。試合後、「最後までマウンドを降りたくなかった」と、エースとしての意地を口にした。

 昨秋の県大会は初戦で敗退した。「四死球を出すのが怖い」「野球をやめたい」と母・清美さん(46)に弱音を吐いたこともあった。

 しかし岩井監督は「技術を上げれば自信がつく」と考えていた。冬場の走り込み、指先の力を強めるための指立て。球威が増すと「投げるのが楽しくなった」。

 後ろで控える投手陣を信頼し、春季県大会優勝の立役者となった。春の関東大会の日大三戦でも大量得点を許し敗れたが投げ抜いた。

 甲子園に臨む組み合わせ抽選会で、智弁和歌山との対戦が決まると、清美さんは「強豪校だね」とメールを送った。「仲間がいるから大丈夫。心配しないで」との返事だった。

 この日の試合では球が時折高めに浮き、失投もあった。「初めての甲子園の雰囲気にのまれた。本来のピッチングができなかった」と悔しさをにじませた。

 しかし、スタンドから見守った清美さんは「弱かった息子が、こんな大きな舞台に立てることは本当にすごい」と目を潤ませた。「本当に頑張った。成長したね」と拍手を送った。

毎日新聞埼玉版)

◇本来の投球できず失投

 三回、捕手の白石遼は、勝負どころで投げると決めていたフォークを、この日初めてマウンドの北川大翔に要求した。「ワンバウンドするくらいの高さで来い」。真ん中低めにミットを構えた。

 一、二回と相手打線を抑えていた北川だが、三回に一死を取って、突如乱れた。マウンドに飛んできた打球をグラブではじくと、続く打者の当たりも、再びはじいて内野安打。一死一、三塁のピンチを招いた。監督の岩井隆からは「1点取られてもいい」との指示。次打者で二死としたが、伝令に走った古谷晃人は、いつにない弱気な表情に、エースの動揺を感じ取っていた。

 「甲子園の常連といっても同じ高校生。失投さえなければ必ず勝てる」。7年連続出場の強豪・智弁和歌山打線を封じるには、外側低めのボールで打たせて取ろうと、バッテリーで決めていた。だが、わずかな失投も許されない緊張感と、大声援が押し寄せる甲子園の雰囲気に、北川は苦しんでいた。

 「カキン」。鋭い金属音が響いた。北川が投げた初球のフォークは高めにすっぽ抜けた。相手はやはり見逃さなかった。

 「取ってくれ、フェンスを越えるな」。2人は、中堅手の田中悠生を祈るように見たが、白球はバックスクリーンに消えた。

 試合後、北川は涙をこらえ、試合の流れを変えたあの一球を悔いた。「失投でした。本来の投球ができなかった。智弁和歌山は本当に強かった」

(読売新聞埼玉版)