花咲徳栄、初戦敗退 智弁和歌山に1−11

 第93回全国高校野球選手権大会第4日は9日、甲子園球場で1回戦4試合が行われ、埼玉代表で10年ぶり2度目の出場となった花咲徳栄は、春の選抜大会ベスト8の智弁和歌山に1―11で敗戦。春夏合わせて過去3度の出場で初めて初戦敗退した。

 この日最高の約2万2千人が見守った第4試合。日中の暑さが冷めやらぬ午後3時37分にプレーボール。花咲徳栄のマウンドには右腕エース北川。対する智弁和歌山も左腕エース青木を立てて、真っ向勝負。

 試合が動いたのは三回。北川は2死二、三塁とされると、智弁和歌山の3番山本にセンターバックスクリーンに3ランを浴びた。追い上げたい花咲徳栄はその裏、2死一、二塁から3番大塚の右翼線二塁打で1点を返した。相手投手の球は捕らえている。ここから反撃が期待された。

 しかし、失点が止まらない。堅守の花咲徳栄らしからぬミスもあり、北川は五、六回に2点ずつ、七回には3点を失った。点差が開いてしまっては持ち前の堅実な野球も通用しない。10安打を放ったが、1点止まり。逆に5失策が重くのしかかった。岩井監督は「チャンスをつないで点を取れたところは意地。ただ10安打だから、あと3点は取れた」と悔しがった。

 試合終了とともに、「花」の人文字がつくられた花咲徳栄の一塁側アルプススタンドはため息に包まれた。しかし、すぐに大きな拍手と「ありがとう」の言葉が響いた。花はつぼみのまま、応援に駆け付けた人々の胸にそっとしまわれた。また、いつかこの舞台に戻ってくることを願って。

◇10安打もつながり欠く

 花咲徳栄は先発北川が3ランを浴びるなど、2投手が13安打11失点と打ち込まれ、智弁和歌山に大敗。打線は10安打ながら1点止まりで、5失策も大きく響いた。

 北川は三回2死二、三塁のピンチを招き、智弁和歌山の山本に3ランを打たれると、五、六、七回にも長打とミスが絡んで立て続けに失点した。

 打線は三回に4連打が出たが、走塁ミスが重なって大塚の適時二塁打による1点のみ。毎回走者を出しながら追い掛ける展開で工夫がなく、得点につながらなかった。

◇孤軍奮闘3安打

 2番田中は複雑そうな表情で試合を振り返った。相手投手を攻略し、五回には三塁打を放つなど3安打と活躍したが、一回には一塁でけん制死。「(三塁打で)足は見せられたかもしれないけれど、一回の走塁は後悔している」と悔やんだ。

 攻撃的に打って出る2番打者として面目躍如。相手投手の攻略のため、甘く入る球を思い切って引っ張る狙い通りの打撃ができていた。「対応できていたけれど、いいところで適時打が出なかった」と、打線がつながらなかったことを嘆いた。

◇練習通りの一打

 ナインを勇気付ける一本を放ったのはやはり背番号6だった。3番大塚が三回、チーム唯一となる適時打。「詰まったけれど、思ったより伸びてくれた」と振り返った。

 3ランを浴びた直後の三回2死一、二塁、5球目の内角高めの直球に対し、「まっすぐを張っていた」と右翼線に落ちる二塁打。試合前に「内角は反応で打つ」と話していたように、体をくるっと回転させて放った練習通りの一打だった。

 しかし、第3打席はチャンスで三振し、「悔いが残る」と唇をかんだ。

◇北川、本来の投球できず

 特大3ランを浴びた直後、手に取ったロジンバッグをマウンドに投げ捨て、プレートを足ではたいて悔しさを押し殺した。花咲徳栄のエース北川は7回10失点で降板。「自分の失投で本来の投球ができなかった」とうなだれた。

 三回1死、自身の一塁悪送球で走者を出すと、続くゴロもグラブに当てたが捕球できず、安打となってしまった。そして2死二、三塁から浴びた3ラン。「浮足立って投げ急いでいた」とそこに至る流れを悔やんだ。

 新チーム結成当初から昨秋まではエースの自覚がなかったが、春夏の県大会優勝を経て精神面でも成長した。「信用して使ってくれている。期待に応えたい」。持ち味の打たせて取る投球ができず敗れはしたが、チームを甲子園に導いたのは間違いなくその右腕だった。

◇その道筋に成長の跡

 「自分たちの野球をしたい」。ナインは強豪相手にも持ち味を貫く覚悟を口にしてきた。花咲徳栄といえばバントや盗塁を絡めた機動力野球。その土台は堅守のはずだった。しかし、狂った歯車は戻らず、名門の智弁和歌山に大敗。岩井監督は「計算できない失点があり、最後はただ打つだけになった」と悔やんだ。

 たった一球がすべてを変えた。三回2死二、三塁で智弁和歌山の打席には3番山本。北川の初球のフォークが真ん中に行き、センターバックスクリーンに特大の先制3ランを浴びた。北川は「自分の失投」と素直に認めた。

 直後に1死から9番金子が安打で出塁。続く長尾の安打で一気に三塁を狙ったが憤死した。金子は「セーフと思ったが、気付いたらタッチされていた」。田中、大塚の連打で1点を返したが、走者が生きていればもっと得点できていただろう。

 岩井監督も「エラーというより、ボーンヘッドや状況判断ミス」と首をひねる。記録に残らないミスと5失策もあり、10安打を放ちながらわずか1点止まり。これは花咲徳栄の野球ではない。

 それでも主将の広岡は「最後まで応援してくれた人に感謝したい」と殊勝に語った。昨秋の県大会初戦敗退から始まったチーム。その原点を振り返れば、聖地にたどり着き、強豪と渡り合えたことは計り知れない成長だ。

◇粘り強く熱投

 智弁和歌山の先発青木は粘り強く投げた。10安打を許しながらも8回を1失点。春の選抜大会でも力投した青木は「何本打たれても、最少得点に抑えれば問題ない」と事もなげに話した。

 連打を許したのは三回と七回の2度だけ。走者を背負った場面では変化球を低めに集め、打たせて取る投球でしのいだ。「選抜が終わってからは走者を出してからどういうピッチングをするかを意識してきた」と練習の成果を実感していた。

花咲徳栄ナインのひと言

(1)北川大翔投手 準備ができていなくて思うように球が行かなかった。
(2)白石遼捕手 北川に低めに投げさせてあげられなかったので悔しい。
(3)広瀬茂治一塁手 試合中にけがをしてしまいチームに迷惑を掛けた。
(4)長尾駿二塁手 自分らしいプレーを見せたかったが、できなかった。
(5)金子龍哉三塁手 甲子園は雰囲気が違った。良かったし楽しかった。
(6)大塚健太朗遊撃手 悔いは残るが最後までみんなとできてよかった。
(7)新井載弘左翼手 みんなでここまでやってこられたので悔いはない。
(8)田中悠生中堅手 最後打てず悔しい。どんな形でも塁に出たかった。
(9)広岡翔太右翼手 感謝の気持ちだけは忘れずプレーできて良かった。
(10)松本晃岳投手 けがから復帰し投げられる喜びを実感できた。
(11)上田倖平投手 県大会とは球場の雰囲気も相手の強さも全部違った。
(12)中村達也捕手 失策ひとつで流れが変わってしまうことが分かった。
(13)冨宇加勇人一塁手 憧れていた甲子園の打席に立てて感激した。
(14)沢幡和志投手 相手は長打が多く全国レベルの打撃を思い知った。
(15)古谷晃人二塁手 出られてうれしい。気持ちで思い切り打った。
(16)藤原涼太郎左翼手 安打も多く出て自分たちの野球はできたと思う。
(17)渡辺将斗右翼手 最高の仲間と最高の場所で終わることができ幸せ。
(18)日野原匠投手 甲子園に来られてうれしいが試合に出たかった。

埼玉新聞