春日部東が上尾破る 高校野球埼玉大会

(18日・県営大宮ほか)

 第8日は6球場で3回戦の残り16試合が行われ、4回戦へ進む32校が決定。城北埼玉が白岡を2−0で破り、創部30年で初の3回戦突破を決めた。

 昨年4強の春日部東はCシード上尾に9−2でコールド勝ち。入間向陽の林、所沢北の戸谷、所沢西の関口はいずれも2試合連続完封勝ちした。川口は延長十回に3点を勝ち越し、春日部工を6−5で振り切った。Aシード浦和学院、Bシード坂戸西は順当に4回戦へ進出した。

 第9日は19日、県営大宮など3球場で4回戦8試合が行われる。

城北埼玉、躍進支える堅守

 新たな扉が開かれた瞬間だった。最後の打者の遊ゴロを三枝が好プレーでさばくと、エース村上は「よっしゃー!」とガッツポーズ。城北埼玉が1980年の創部以来、初の4回戦進出を決めた。

 「満点の試合。みんな本当によく頑張ってくれた。感無量です」。同校OBでもある藤野監督は就任20年目での悲願達成に喜びもひとしおだ。

 エース村上の投球がさえわたった。厳しいコースを投げ分けて2安打完封。ピンチではけん制で2度刺すなど、常に冷静さを失わなかった。「歴史をつくれてうれしい」と充実した表情を浮かべる。初戦の2回戦、越谷東戦は1失点で完投しており、抜群の安定感だ。

 バックも再三の好プレーで村上を援護した。2試合連続で失策ゼロ。エースを中心とした堅守が躍進の柱となっている。

 主将で捕手の大里は村上を好リードし、打っては先制打を放つ活躍。「歴史を塗り替えようとチーム一丸で戦った。応援してくれた方々に感謝したい」と笑顔がはじける。

 次は優勝候補の浦和学院戦だが、「チームの持ち味である明るさを前面に出して臨みたい」と意気込みを語った。

◇努力重ねた「芸術品」杉戸・本田投手

 「大好きな野球をやめたくなかった」―。杉戸の本田幸盛投手(3年)は中学2年の時、ひじのけがで右投げから左投げに転向した。高校からは下手投げ投手になり、努力を積み重ねた。そして18日の熊谷西戦。公式戦、最初で最後のマウンドをつかんだ。チームは5−10で敗れたが、本田投手は九回を無失点に抑えた。「利き腕で投げられなくなっても、逆の腕がある」。そう言わんばかりの力投だった。

 野球を始めたのは小学1年生。小学3年で投手になってから、ずっと右上手投げで通してきた。ところが中学2年の終わりに、使い込んできた右ひじが悲鳴を上げた。試合で投げたときに曲がらなくなってしまったのだ。あまりの痛さに「もう右腕では投げられない」と思ったという。

 それでも野球をあきらめなかった。小学校時代、遊びで左で投げていたことがあり、迷わず左投げに転向した。最初は一塁手だった。

 再び投手になったのは高校に入学した年の6月。高橋薫監督の勧めだったが、ストライクがまったく入らなかった。岡崎将人捕手(3年)は「四死球は当たり前。1回に7失点以上することも度々あった」と苦笑いする。

 投げ込み、走り込み、下半身トレーニングを黙々と繰り返した。実を結び始めたのは今年の春。ふた冬を越え、制球力がアップ。調子も上がり、春季大会ではベンチ入りを果たした。本田投手も「このころから自信がついてきた」と振り返る。

 地道な努力をずっと見てきた高橋監督は、本田投手を「芸術品」と評する。この夏は貴重な戦力として考えていた。迎えた熊谷西戦。七回表からブルペンで肩をつくり、出番を待った。そして九回、夢にまで見たマウンドに笑顔で立った。四球を出しながらも味方の好守で3人で抑える。ベンチに戻ると「ナイスピッチング」とナインにもみくちゃにされた。

 「投げられてうれしかった」。背番号18の顔は、梅雨明けの空のようにすっきりと晴れ渡っていた。

◇所沢北、復調の左腕、挑戦続く

 所沢北の戸谷が手に汗握る投手戦を制した。和光の好左腕・佐野に投げ勝ち、散発3安打の完封。球数はわずか99球で三塁を踏ませなかった。

 「きょうは調子がメチャメチャよかったんです。スライダーが曲がらないときは内側を攻めました」。一回、先頭打者をスライダーで三振に仕留めると、リズムをつかんだ。「ストレートを織り交ぜながらの制球は安定。崩れなかった」と中野監督は褒めた。

 少ないチャンスを生かし、味方打線が五回と八回にそれぞれ1点をたたき出して援護した。九回に唯一、四球での出塁を許したが、「完封を意識してしまったかも」と照れた。完封は2回戦の越谷南戦でも体験済み。野手の好プレーにも助けられたが、2度の完封勝利は見事。

 今年2月、頑張りすぎて腰を負傷。春の県大会は欠場した。控えの2年生投手2人で正智深谷に挑んだが6−7で惜敗。今大会のシード権は獲得できなかった。練習試合には登板していたが「バランスを崩していて使う方としては心配だった」(中野監督)という。6月ごろから徐々に調子を上げてきた。“故障あがり”の挑戦は続く。

◇和光 リーダーの自覚が芽生え、背番号1が成長

 部員20人の夏が終わった。3人の3年生がまとめたチームを引っ張ったのは、主将でエースの佐野だ。県内屈指の左腕は三振13個を奪い、2失点に抑えながら惜敗。「大変だったけれど、いいことの方が多かった」と涙をぬぐった。

 四回、1死一塁から甘い直球を痛打され、先制点を与えた。八回は高めの直球を三塁打されて2点目。反撃を狙った七回には、先頭打者で中前打を放って出塁したが、けん制球に誘い出されて好機をつぶした。佐野は「気持ちが前に行き過ぎてしまった」と、責任を1人で背負い込む。

 昨夏もエースだったが、新チーム発足後の新人戦で背番号16に降格。だが、リーダーの自覚が芽生え昨秋にすぐさま大黒柱の地位を奪い返した。「ひたむきに努力し、成長してくれましたね」。熊井監督は背番号1に賛辞を惜しまなかった。

◇春日部東 好球必打、強気で逆転

 好試合が予想されたCシードの古豪と、昨年4強の対決は、意外な結末。上尾にコールド勝ちした春日部東の中野監督は「たまたまこの結果になった」と控えめだった。

 勝負どころを全員が感じていた。2点を追う四回、四球と敵失で1死一、二塁の好機。主将の藤田は「失策、四球が出たときは点を取る好機。みんなが『ここだ』とスイッチが入った」。

 ここまで上尾の左腕・伊藤に1安打に抑えられていたが、5番冨田の二塁打で1点差、続く大橋の2点三塁打で一気に逆転した。

 「たまたま自分が打っただけ」と指揮官と同じようなコメントをした冨田はこの日5番に昇格。中野監督は「期待して5番にした。あの一本は大きかった」と称賛。大橋は「暑かったので球数を投げさせる指示だった。四回は球威が落ちて、球が浮いていた」と高めの直球を狙い打った。

 これで勢いに乗ると、六回には中軸の3連続タイムリーなど打者11人で6安打を集中。6得点し大勢を決めた。投げては四回から登板した2番手の菊池が「点を取った後の守備を抑えれば自分たちの流れが来る」とパーフェクト投球。たまたまではなく、必然の勝利だった。

◇ゴロの山築き、2試合連続完封 入間向陽・林聖也投手

 完全に一皮むけた。右横手から丁寧にコーナーを突き、被安打4で本庄東を完封。尻上がりに調子を上げ、「今日は状態が良かったので、コースに投げ分けることができた。完封?終盤からは意識しました」と誇らしげだった。

 13日の2回戦で西武文理を被安打7に抑え、公式戦初完封。いずれも1−0のきん差の勝利とあって、西沢監督は「練習試合でも2試合連続で1−0で勝ったことはない。バックを信じて打たせて取る投球ができている」と、半信半疑ながらも喜びを隠し切れない。

 右打者には外に逃げていくスライダーが効果的に決まった。左打者には外角低めを引っ掛けさせ、ゴロの山を築いた。外野への飛球はわずか1本だった。女房役の冨田は言う。「攻める気持ちが出ていたし、スタミナも十分残っていた」。九回1死満塁のピンチにはギアを入れ、代打大沢と1番村橋を渾身の直球で詰まらせ、勝利を呼び込んだ。

 味方の援護は2試合でわずか2点だが、「打線が打てないときは自分が頑張って投げるしかない」。エースらしいコメントも堂に入ってきた。

 身長174センチ、体重70キロ、飯能吾野中出身。

埼玉新聞