よみがえれ上尾、熊商野球<5>伝統継承者の挑戦 復活の夏へいざ出陣

 今年の熊谷商のテーマは「原点に帰ろう」。昨夏の北埼玉大会で4強に進んだことで、「慢心が生まれてしまった」とチームに緩みを感じた現監督の江原正幸。昨秋、今春ともに北部地区予選で敗れ、江原は故・斎藤秀夫が監督を務めていた時代の「選手心得10カ条」を注入し、ねじを巻き直した。

 「甲子園出場を果たすには、不可能を可能にする努力によって実現できる」。「試合に強い選手とは素質のある選手ではない。気力、気迫、意地のある選手である」など(抜粋)。

 練習前には10カ条を復唱。選手の野球に対する姿勢は変わった様子で、エース菅原和樹は「負けたくない気持ちだけは上回ることを意識している」と力を込める。

 冬場は城西大監督の原田勝美とともに体力づくりに励んだ。6月には江南高(新潟)のコーチを務めていた近藤論を招いて集中的に打撃練習。熊谷商野球が染み込んだOBの直接指導で刺激を受けた。

 かつての豪快な打撃のチームから、つなぐ野球にカラーは変わっているものの、「4番打者には送りバントはさせない」と江原は断言する。それが斎藤から続く伝統。菅原は「昨夏で熊谷商を意識した。今年こそ甲子園に行きたい」と決意がにじむ。

 昨年の北埼玉大会準優勝について、上尾の主将の安保司は「夢が具体的になった」。捕手の本木駿也は「古豪を意識して責任感が強くなった」と力に変えるつもりだ。レギュラーとして試合に出場していた2人は、勝ち上がるごとにヒートアップする上尾の注目度の高さが身に染みたという。

 昨年4月に監督に就任した33歳の鳥居俊秀は、故・野本喜一郎の指導は受けていない。高校当時の監督は、現大宮工監督の新井浩だった。それでも、「細かい指導はしない。方向性は示すが、後は自分で考えて身に付けるもの」との持論を持つ鳥居。脈々と続く、自主性を重んじる「野本イズム」は孫弟子も、しっかりと受け継いでいる。

 昨秋の県大会は初戦敗退。昨冬の最後の練習試合でもボロ負けした。主将も駒村晃司から安保に代わり、「駒村が悪いわけじゃないのに、つらい思いをさせてしまった。その分も一生懸命やらねばと思った」と安保。野球に集中するために、私生活から自分自身を見直したという。

 春の県大会3回戦で、関東高校大会覇者となった浦和学院と延長10回にもつれ込む接戦を演じた。3−7で敗れたが、8回まで3−2とリードし、勝利まであと一歩だった。本木は「やってきたことを出し、絶対に甲子園に行きたい」と、きっぱりと宣言した。(敬称略)=おわり

埼玉新聞