夏に誓う「母への恩返し」 花咲徳栄・戸塚瞬外野手

 転がるはずのボールは無情にも高く上がった。

 九回無死一、二塁でのバントに失敗。「ミスのイメージが浮かんでしまった。バントは『気持ち』なのに情けない」。

 六回には1死満塁で主砲のバットは空を切った。「足を引っ張った…」。悔しさで目を潤ませた。

 誰にも負けない気持ちの強さを誇り、昨秋の新チーム発足で4番に抜擢された。周りには夏を経験した仲間もいる。「どうして自分が…」。正直、戸惑いもあった。不安を練習にぶつけ、徐々に消して行った。

 朝6時半からひたすら振り続けたバット。できた手の豆はその日のうちに潰れた。苦手だった変化球も捉えられるようになり、昨秋の公式戦ではチーム2位の15打点をたたきだした。

 この試合も八回にカーブを中前にはじき返すなど2安打を放ったが悔いは残る。もっと打てたはずだし、何より母、水無子さん(43)に感謝の気持ちを伝えたかった。

 中学時代、夜のランニングには必ず水無子さんが自転車で伴走。強豪校への進学も「背番号はもらえないかもしれないけど、3年間しっかりやりなさい」と優しく送り出してくれた。

 春は散ったが、また夏が来る。「全国制覇を成し遂げ、母に『ありがとう』と言いたい。それが恩返しと思う。また努力を続けます」。主砲の目から涙は消えた。

産経新聞埼玉版)