川口のエース、一番得意な球で勝負

 (浦和学院2―1川口、延長10回)

 「自分が抑えるしかない。一番得意な球で勝負する」

 川口のエース、高窪和希投手(3年)のもとに集まった内野手が口々に声をかけた。「ここまで来たら、これまでやってきたことをやろう」

 仲間たちの顔を見て、腹をくくった。全身の力を振り絞って直球を投げた。しかし、ここまで5試合に完投した肩は疲労からか微妙な制球がきかなかった。

 鋭い打球が中前に抜けていく。捕手の松崎泰知選手(同)のタッチも及ばず、高窪投手の夏が通り過ぎていった。

 「低めをねらったが少し甘めにいった。疲れで腕が振れなくなっていた。自分が抑えなきゃいけないのに……」。試合後、声をあげて泣いた。

 168センチの小柄な体の全身を使って直球とスライダー、カーブ、ツーシームと多彩な球種を操る。130キロ台の球速ながら緩急のコンビネーションで打者の打ち気を外し、抑えてきた。エースの自覚は十分。「気持ちではどこにも負けない」と自らを鼓舞し、今大会も強豪校を倒してきた。

 昨年冬。右ひじを痛めて満足な投球ができず、学校や自宅周辺を走り込んだ。下半身がたくましくなり、球威が増した。さらに、ひじの負担を減らすため、スリークオーターにフォームを変更した。球の出どころが見えにくくなり、関東大会進出を果たした。

 試合前、「浦和学院を倒さないと甲子園に行けない。攻めの投球で公立校の意地を見せる」と仲間に誓った。狙い通り、立ち上がりから打者の内角を大胆についた。打たれはしたが、要所で抑え、強豪校と互角に渡り合った。

 松崎捕手も「後半は気持ちだけで投げていた。最高のエースだった」とたたえた。

 55イニング。「最後までやりきった。持てる力は出せた。気持ちでは負けなかった」。振り返った小さな鉄腕の顔は、ベスト4の自負があふれていた。

朝日新聞埼玉版)

◇大躍進演出「小さなエース」 川口・高窪和希投手(3年)

 125球目のスライダーが、わずかに高めに浮いた。快音を残した打球が中堅前に転がる。大歓声が上がる中、バックネット前で泣き崩れた。

 チームは47年ぶりの4強進出。大躍進を演出したのは全6試合738球を一人で投げ抜いた身長168センチの“小さなエース”だった。

 昨年11月末、右ひじを痛めた。投球練習ができない間、下半身を鍛え抜いた。今春、上手投げからスリークオーターに変え、ボールの切れが増した。

 しかし5月の関東大会後、フォームが乱れ調子を崩した。「短いイニングすら投げられなかった」。女房役の松崎泰知捕手(3年)を相手に、投げ込みを繰り返した。今大会、本来の力強さがよみがえった。

 「自分が投げなきゃてっぺんに立てない」。強い決意を胸に、強豪相手に立ち向かった。「生涯最高のピッチングだった」。夢の甲子園にあと一歩届かなかったが、“小さなエース”は大きく胸を張った。

毎日新聞埼玉版)