春日部共栄、戦い抜いた充実感

 (聖望学園4―0春日部共栄

 試合終了後、相手とのあいさつは笑顔だった。負けたが、全力で戦い終えた充実感が満ちていた。ベンチに戻ると、仲間たちが言葉をかけてきた。「ずっとチームを引っ張ってくれてありがとう」。その言葉を聞いて、鎌田雅大主将(3年)の目から涙があふれた。

 昨夏の大会でも4番。決勝に進んだチームの中心打者として活躍した。実力だけでなく、素直で真面目な性格から周囲の信頼も厚かった。しかし、主将に就任した昨秋から、打撃が深刻な不調に陥った。

 「主将」「4番」……。重圧が無意識に体を硬くさせていた。春の県大会では、打率はわずか2割ほどにまで落ち込んだ。

 「真面目さと責任感の強さが、裏目に出ている」。本多利治監督はそう感じたが、主砲の復調を信じ、毎日のようにつきっきりで打撃指導を続けた。鎌田主将も必死で猛特訓に応え、夏に備えた。

 大会前、本多監督は「主将だから、4番だからじゃない。1人の選手として、大舞台を楽しめ」と伝えた。その後は、重圧から解き放たれたように、思い切りのよいスイングがよみがえった。3回戦では本塁打を放つなど、全試合安打で絶好調だった。この日も相手投手陣に封じ込まれる展開のなか、6回に右前打を放ち、意地を見せた。

 「彼には将来がある」。本多監督は次のステージでの活躍に期待を寄せる。鎌田主将も「面倒をみてくれた監督や支えてくれた仲間に、大学野球で活躍している姿を見せたい」。決意を新たにし、晴れやかな笑顔でグラウンドを去った。

朝日新聞埼玉版)

◇「全力出し切った。悔いない」 春日部共栄・鎌田雅大主将(3年)

 九回裏2死一塁。バッターボックスの浜谷康平選手(3年)に向かって大声で叫んだ。「思いっきりいけ」。白球が転がった瞬間、無我夢中で二塁に駆け込んだ。「全力を出し切ったので悔いはありません」

 昨秋、主将に指名された。「自分がチームを引っ張る」。しかし気持ちが空回りし、春の大会は打撃不振に陥った。「最後の夏だ。主将や4番じゃなく1人の選手として楽しんでこい」。本多利治監督の一言で迷いが吹っ切れた。この日を含めて全試合で安打を記録。本多監督は「指示通りに外角の球を踏み込んで打った。お手本のようなヒットだった」と活躍をたたえた。

 試合終了後。チームメートの言葉が、心に響いた。「引っ張ってくれてありがとう」。大粒の涙がこぼれ落ちた。

大学進学後も野球は続けるつもりだ。「活躍する姿を見せて、3年間支えてくれた仲間と監督に恩返しをしたい」。いつもの笑顔が広がった。

◇OBら駆けつけ

 春日部共栄の応援席に、3月に卒業した野球部OBとOGが駆けつけた。昨夏の決勝で1点差で涙をのんだ竹崎裕麻さん(18)=青山学院大硬式野球部=は「昨年も5回戦で聖望学園と対戦し、逆転勝ちした」と昨年同様の逆転劇を信じて声援を送った。マネジャーだった小林有沙さん(18)=東洋大硬式野球部マネジャー=も「絶対に後輩には甲子園に行ってほしい」と祈るようなまなざしで、グラウンドの選手たちを見守っていた。

毎日新聞埼玉版)