敗れるも笑顔で終えた夏 坂戸西・長谷川翔太投手(3年)

 八回表、連打から2点を失い、逆転を許した。直後に死球を出したところで交代を告げられた。昨夏の覇者・花咲徳栄を七回まで4安打に抑える力投を見せていただけに、「完投したかった」と悔しさをにじませながらマウンドを降りた。

 1年の秋から1番を背負った。抜群の制球とストレートを武器に強気の投球を得意としてきたが、野中祐之監督からは「その野球では大会は勝ち進めない」といわれた。その言葉を理解できないまま臨んだ2年の秋季大会、今年の春季大会は、いずれも地区予選1回戦で敗退した。

 「勝ちたい一心」で発想を切り替えた。緩いカーブを絡め、緩急をつけた投球を心がけるようにした。その結果、投球数も少なくなり、「勝つための野球」が理解できた。

 迎えた最後の夏。底抜けに明るいチームは南稜をはじめ強豪校を破る大躍進を遂げた。三塁コーチの山崎隼選手を中心にピンチでも笑顔が広がる。「このメンバーのおかげで野球をやりきれました」というエースは進学はせず、就職の道を選ぶが、何らかの形で野球には携わるつもりだ。「きょうの七回までは3年間のベストゲームでした」と、笑顔で夏を終えた。

産経新聞埼玉版)

◇生涯ベストの投球 坂戸西・長谷川翔太投手(3年)

 1点リードで迎えた八回表。突然、制球が乱れて2失点。無念の降板となった。「明日もまた練習がある気がします」

 入部当初は、速球投手だった。ぐいぐいと力で押す投球が信条で、1年の時にエースに指名された。しかし昨夏の悔しい経験が、その投球スタイルを変えた。

 初戦の川越工戦。1点リードで迎えた九回裏に追いつかれ、十回で降板した。チームはサヨナラ負けし「速球だけでは勝てない」と痛感した。変化球の制球を磨き、投球の幅を広げた。

今大会直前の5月上旬、左脇の筋肉を痛めた。満足な投球練習ができなかったが、背番号「1」を譲るつもりはなかった。「エースの証しは渡さない」。下半身の筋力強化を図った。

 自信を持って臨んだこの日のマウンド。「今までの自分とは違う」。初回から緩急を付けたピッチングがさえ、七回まで無失点に抑えた。「生涯ベストの投球だった」。そう言って胸を張った。

毎日新聞埼玉版)