花咲徳栄、好機生かせず 強豪相手に10安打

 強豪を相手に10安打。決して力を発揮できなかったわけではない。初回に初ヒットを決めるも、けん制でアウトになった田中悠生選手(3年)は「みんな焦っていた。守備が乱れ、走塁ミスが続き、点につなげることができなかった」。それでも、全校生徒の半数を占める1000人以上が駆け付けたアルプス席からは、全力プレーをねぎらう拍手が鳴りやまなかった。

 試合が動いたのは三回表。エース・北川大翔投手(同)の甘く入ったフォークボールを、相手打者が見逃さず3点本塁打を浴びた。「まだ大丈夫」「切り替えて」。祈るような声援が飛んだ。

 三回裏、徳栄ナインは意地を見せる。2死一、二塁の好機に「自分の力で流れを変える」と決意して打席に入った大塚健太朗選手(同)が、直球をフルスイング。これが適時二塁打となり、1点を返した。母みどりさん(44)は「心配で直視できなかった。大舞台で決めてくれてうれしい」と笑顔を見せた。

 だが、五回以降は相手の長打で点差が開いた。

 五回表、一塁手の広瀬茂治選手(同)がファウルフライを追ってベンチに飛び込み、アウトを取るファインプレー。ところが、ベンチに倒れ込んだことでボールデッドとなり、三塁走者が還った。その後、ひざを痛めて交代した広瀬選手は「悔しい」と唇をかんだ。

 10点差で迎えた最終回。「最後までがんばろうぜ」。野球部の応援団が絶叫しながら、青と赤のメガホンを頭上で大きく揺らした。だが、最後まで「あと1本」が出なかった。

 大阪出身の広岡翔太主将(同)の母昭子さん(46)は「『甲子園で会おう』という約束を果たしてくれた。親孝行者です」と涙を浮かべながら、声を絞り出した。「本当にありがとう」

埼玉栄が代理応援

 花咲徳栄のアルプススタンドで、系列校の埼玉栄吹奏楽部が応援演奏し、選手を後押しした。自校の吹奏楽部のコンクールが試合日程と重なり、急きょ、系列校に応援を依頼した。埼玉栄吹奏楽部員や卒業生41人が花咲徳栄のスクールカラーの青の帽子とポロシャツを着て、初めて呼吸を合わせる野球部員らと息の合った応援を繰り広げた。リーダーでトロンボーンを担当した白崎駿(すぐる)さん(2年)は「徳栄の生徒の気持ちで応援する。点差は開いたけど、全力で吹きます」と話した。

◇最後までエール

 低音で声をからし応援する花咲徳栄の応援団員の杉本遥花さん(2年)。部員は松木健(たける)さん(2年)と2人。花咲徳栄が昨年のセンバツに出場した時、振りや声が大きい女性応援団員をテレビで見てあこがれて入部した。この日は、守備では、腕を前で組みじっと相手のアルプスを見つめ、「負けない」と心に誓った。攻撃中は、切れよく拳を振り下ろし大応援を引っ張った。杉本さんは「徳栄の野球で絶対逆転してほしい」と最後まで力強い応援を送り続けた。

◇生徒ら120人が声援

 花咲徳栄の校舎では、部活動のため登校した生徒や教員ら約120人が大教室に集まり、テレビ中継を見ながら熱心に声援を送った。

 三回、待望の得点に生徒たちはメガホンを打ち鳴らし、大歓声。しかし、その後の厳しい試合展開に生徒たちは真剣な表情で画面を見つめ、吹奏楽部の伊藤えりかさん(17)は「強豪を相手に県大会の時より良いプレーができている。やってくれるはず」と逆転を祈った。

 画面の向こうの応援団に合わせた掛け声や、メガホンをたたく音は試合終了までやまなかった。全国大会出場を控え、練習着のまま応援に集まった女子硬式野球部の小林優主将(17)は「結果は残念だが、頑張る姿に同じ選手として胸が熱くなった。仲間を信じて一生懸命に戦うことの大切さを教わった」と話した。

毎日新聞埼玉版)