けが克服し憧れのマウンド 花咲徳栄・松本晃岳投手

 「腕がつぶれてもいい」。9点差がついた八回から二番手で登板した右腕松本晃岳(あきお)投手(三年)は、強力打線に全力で向かった。二回を投げて3安打1失点。チームは敗れたが、「夢のような時間だった」と喜びをかみしめた。

 昨春の選抜大会は、ベンチで先輩投手の活躍を見守った。「いつかあのマウンドで投げたい」。先発を任されるようになり、夢に近づいた昨年五月、試合で右腕の靱帯(じんたい)を痛めた。球を握ることさえできなくなり、十一月に手術に踏み切った。

 復帰までの道のりは長かった。それでも黙々とリハビリを続けた。折れそうになる心を支えたのは、「一緒に甲子園に行こう」という仲間の言葉と、「もう一度あの場所に戻りたい」という強い気持ちだった。

 今年六月の練習試合で復活登板。夏の県大会3回戦では先発を任され、四回無失点の好投でアピールした。しかし、けがの間に北川大翔投手(同)がエースとして成長。「甲子園では、北川がピンチを迎えた時に救う」と心に決めた。

 その時が巡ってきた。捕手のミットに意識を集中させ、夢中で投げた。九回2死一、二塁のピンチには、ありったけの力を込めた速球で打者を三振に仕留めた。

 「もう立てないと思った場所に戻ることができた。負けたけど、悔いはない」。どん底を見た右腕は、3年間の最後を笑顔で締めくくった。

東京新聞埼玉版)