埼玉県勢、初の負け越し 夏の甲子園54勝55敗

 熱戦が続く第93回全国高校野球選手権大会で、埼玉代表の花咲徳栄は9日の1回戦で智弁和歌山に1−11で大敗し姿を消した。これで埼玉県勢の夏の甲子園での通算成績は54勝55敗となり、最初期を除けば初の黒星先行となった。悲願の大優勝旗を目指す以前に、この事態は県高校野球界にとって看過できない。このまま埼玉は全国から取り残されていくのか。そうならないために何が必要なのか。近年の出場校の監督の証言を中心に検証する。

◇勝てない埼玉

 埼玉県勢は、第68回大会(1986年)に強打者・鈴木健(元西武)を擁した浦和学院がベスト4入り。第70回大会(88年)では浦和市立(現市浦和)が4強まで勝ち進み旋風を巻き起こした。そして迎えた93年、選抜大会で大宮東が準優勝し、続いて夏の第75回大会で春日部共栄が銀メダルを獲得。夏の優勝がない埼玉にとって、悲願はそう遠くない将来に達成できるとの期待があった。

 しかし、近年は優勝どころか、1勝することすら厳しい状況だ。第85回大会(2003年)で聖望学園がベスト8入りしたものの、その後は苦戦。第87回大会(05年)で春日部共栄大阪桐蔭に初戦で敗れて以来、初戦を突破したのは、記念大会で2校出場した第90回大会(08年)の本庄一だけで1勝8敗だ。

 今大会で智弁和歌山と対戦した花咲徳栄のように、初戦の相手が強豪が多く、くじ運に恵まれていないという見方もできるが、全国制覇するには倒さなければならない相手だ。

◇経験者は語る

 甲子園出場校の監督はどう思っているのか。夏の埼玉大会では過去10年、浦和学院聖望学園本庄一春日部共栄花咲徳栄の私立5校が優勝を分け合ってきた。

 この間、5度出場している浦和学院の森監督は「地方でも環境が良くなり、全国的にレベルが上がった。今は140キロを投げる投手がごろごろいる」と話す。夏は予選を勝ち抜いてきた力のあるチームが集まるため、一つ勝つことも容易ではない。「球の勢いとストライクゾーンで勝負できる投手、それにプラスして打力がないといけない」と夏の難しさを語る。

 本庄一の須長監督は「埼玉は野球の質は上がっていると思うが、うちも含めて甲子園に行くと野球が変わってしまう」と鋭い指摘。同校は昨年、2度目の出場を果たしたが、「甲子園で勝つことより、出場することに重点が置かれ、出場だけで精いっぱいのチームが多くなっている。自分も痛切に感じた」と経験を語る。

 08年の春の選抜大会で準優勝した聖望学園の岡本監督は「春は投手がいたら何とかなるが、夏は総合力が必要」という。それを踏まえて秋春の県大会でのリーグ戦の導入を提案する。神奈川はリーグ戦を実施し、千葉は1、2次予選を行うなど一度負けても次のチャンスがある。「リーグ戦でもまれて県大会のレベルが上がる。その経験が生きて夏に強いチームになる」と力を込める。

◇監督会創設

 新たな取り組みとして昨年、埼玉で監督会が発足した。県高野連と連動して審判講習会に監督を派遣したり、甲子園研修として代表校の試合を現地で観戦したり、さまざまな活動を展開。年1回の総会も行っている。

 初代会長を務める春日部共栄の本多監督は「総会で甲子園に行った監督に若手が質問に来る。今まで話をできる場がなかった。県高野連の発展のためにはいいこと。それが将来、甲子園勝利につながればいい」と話す。

 今回は敗れたが、花咲徳栄の岩井監督も監督会の効果を口にしていた。「切磋琢磨してレベルが上がると思う。今年はたまたまうちだった。これから埼玉は変わるかもしれない」と予見する。

 この一手が大きな実を結ぶことになるのか。県高野連と監督会、県内各校、あるいは審判などが一体となって甲子園で勝てるチームを送り出す態勢が求められる。

埼玉新聞