本庄一、2年ぶり2度目の甲子園 ノーシードから頂点へ

 第92回全国高校野球選手権埼玉大会は28日、県営大宮球場で決勝が行われ、本庄一花咲徳栄に3−2でサヨナラ勝ちし、2年ぶり2度目の甲子園出場を決めた。1回戦から8試合を戦って頂点に立ったのは、本庄一が初。決勝がサヨナラ勝ちで決着したのは第82回大会の浦和学院春日部共栄以来。ノーシードからの頂点は、記念大会で2校が出場した1998年の第80回大会と2008年の第90回大会を除けば、92年の秀明以来、18年ぶりの快挙となった。本庄一は8月7日から始まる全国大会に挑む。

 両校の決勝対決は春、秋の大会を含めても初めて。埼玉の東部、北部の強豪私学の対戦を見ようと、球場には約1万7千人の観客が訪れた。

 本庄一は一回1死一、三塁から、4番田尻の遊ゴロが併殺崩れになる間に先制。八回には、無死一、三塁から、5番葉梨のセーフティースクイズで同点に追い付いた。九回1死一、三塁から、最後は2番谷本が右前打を放ち、勝利を決める三塁走者の田端を迎え入れた。先発田村和は9回を被安打5、2失点に抑える好投。花咲徳栄は七回まで2−1と試合をリードして主導権を握ったが、終盤に先発橋本が打たれた。

 両校とも一球に手に汗握る決勝戦となり、観客席からは惜しみない拍手が送られた。

 本庄一は1925年、塩原裁縫女学校として開校。93年に男女共学となり、本庄女子から校名変更した。野球部は94年に創部。クラブ活動は剣道部、女子サッカー部、バドミントン部などが全国大会で実績を残している。

本庄一、「無欲」貫き頂点へ

 谷本の打った鋭い打球が右前に落ちると、ホームインした田端の周りに歓喜の輪ができた。殊勲者も迎えられ、はじける笑顔、笑顔、笑顔。

 県北の雄がついにやった。ノーシードから勝ち上がった本庄一が春夏連続甲子園を狙った王者・花咲徳栄に劇的なサヨナラ勝ち。須長監督は「追い付いてサヨナラなんて、かっこよすぎる。びっくり。信じられない」と興奮して矢継ぎ早に言葉を畳み掛けた。

 今大会何度も経験した競り合いだった。一回、田尻の内野ゴロの間に先制したが、二回に同点とされ一進一退は続く。グラウンド整備が明けた六回に内野ゴロの間に花咲徳栄に勝ち越された。

 六回、田尻が二飛で全力疾走をしなかった時に、須長監督は「試合に慣れてしまっている」と選手の微妙な気の緩みを感じたという。「おまえら、甲子園に行きたくないのか」。指揮官は初めて甲子園という言葉を使い、選手の気を引き締めた。

 八回、先頭の田村和が死球で出塁。無死一、三塁と好機を広げ、葉梨のセーフティーバントで同点に追い付いた。これで一気に流れに乗り、九回も無死から田端が死球で出塁。1死一、三塁で谷本が右前に決勝打を放った。「気迫が死球になった。これがうちの泥くさい野球だ」と須長監督もご満悦の逆転劇となった。

 3試合連続完投の田村和は制球がよく、無四球で花咲徳栄に大量点のチャンスを与えなかった。捕手の葉梨は「最初は外角中心に慎重だった。逆転されてから開き直って全部内角を攻めた」。リードを変え、七〜九回は三者凡退に打ち取った。

 2校が代表だった2008年の記念大会は北埼玉大会を制しての出場。埼玉代表として単独での甲子園は初めてだ。「ここまで来たのが奇跡。甲子園でも攻めたい」と主将の葉梨。須長監督は「無欲の勝利」と喜ぶ。伸び伸び笑顔の“本一”野球が大舞台でも見られるだろう。

◇3試合連続完投、満点投球の右腕 本庄一・田村和麻投手

 やっぱりこの右腕はすごかった。前日の浦和学院戦を119球で完投。この日は肩やひじに張りを抱えてのマウンドだったが、指先だけに神経を集中できるのはさすが。田村和が被安打5の粘投で、チームを甲子園に導いた。

 3連続完投勝ちの田村和は「満点の投球。ピンチでも自分の間合いで投げられた」と、とびきりの笑顔をのぞかせた。

 選球確かな花咲徳栄打線は準々決勝までの5試合で三振は5個しか奪われていなかった。今大会4強のうち三振の数は際立って少なかった。そんな打線から6奪三振。スライダーやツーシームなど多彩な変化球をコーナーに投げ分け、勝負どころで集中力を発揮した。

 圧巻は九回。「3人で抑えれば攻撃のリズムができる」との言葉通り三者凡退。3人目の橋本にはカウント2−2から球威のある外角直球で仕留め、空振りしたパワーヒッターを打席で小躍りするかのように体勢を崩させた。

 春までエースナンバーだったが、「背番号1で中軸は重圧が大きい」(須長監督)との配慮から、中堅手を兼ね背番号8に。「本当は打撃に集中できる中堅手が好きなんですが」。欲張り過ぎない分、夢舞台で何かやってくれそうだ。

花咲徳栄 春夏連続の甲子園に、あと1本が出ず

 悲願だった春夏連続の甲子園の夢は夏空のかなたへ消えた。橋本の投じた128球目。真ん中に入ったスライダーは右翼手五明の前に落ちた。歓喜に沸く本庄一を前に、花咲徳栄ナインはその場から動けず泣き崩れた。

 終盤勝負に強いはずだった。しかしこの日はその十八番を本庄一に持って行かれた。左中指を痛めていた橋本は決め球のスライダーに切れがなくなり始めていた。七回から毎回先頭を死球で出塁させ、八回は失策でピンチを広げスクイズで同点。これで流れを相手に渡した。笑顔の本庄一のエース田村和とは対照的に橋本の表情は疲労も重なりゆがんでいた。

 打線は1点を勝ち越した直後の七回から3回続けて三者凡退と、橋本を援護できなかった。岩井監督は「もう1本タイムリーで取りたかった」と悔しがる。接戦の中でもどっしりと構えていた横綱は、いつの間にか受け身になってしまった。

 打倒・徳栄で向かってくる挑戦者をはね返してきた。決勝までの6試合で3試合が1点差と負けられない重圧の中、苦しみながらも勝ち上がってきた。それは「とてつもない練習量をこなしてきた」(岩井監督)と、基本を徹底的に繰り返し、手を抜くプレーを一切許さないチームづくりによるもの。

 そして迎えた決勝。岩井監督は「今日だけは楽しんできていいぞ」と選手たちを送り出した。捕手の木内は「ピンチでも楽しめた」とこの時ばかりは顔がほころんだ。

 春夏連続甲子園は逃したが、3季連続で決勝進出を果たしたことは胸を張っていい。指揮官は「力以上のものを出してくれた」とたたえた。ナインの胸には銀メダルが堂々と輝いていた。

埼玉新聞