肩痛め最初で最後の登板 西武台3年・千代田岳史投手

 公式戦で初めてマウンドに立った。何度も深呼吸し、時折顔をゆるめた。背中から仲間の「みんないるから」との声が聞こえたからだ。四回から登板し2点を失ったが、4番打者を三振に仕留め2回を投げ切った。「最後に使ってもらえた。お母さんや仲間に感謝です」。手で顔を覆って声をあげて泣いた。

 走り続けてきた3年間だった。投手を志願して西武台に入学したが、1年の夏に腕が上がらなくなった。7カ所の病院を転々とする間、一度も仲間と練習を共にできなかった。ブルペンに入りたい気持ちを抑え、毎日学校の外周を走った。

 今春、やっと肩の調子が戻り始めた。肩に負担がかからないようサイドスローに変え、出番を待った。

 高校入学と同時に買ったグラブは公式戦で一度も使わないまま練習でボロボロに。花咲徳栄戦の前夜、いつものように玄関先でグラブを磨く息子の背中を、母正美さん(45)は見ることができず、「シュ、シュ」というグラブを磨く音を階段の上がり口に立ったまま聞いた。

 この日、リハビリ生活に「もう駄目なのかな」とつぶやいた息子がマウンドに立った。正美さんはスタンドで目を細めた。

毎日新聞埼玉版)