川越東、12年ぶり8強 全国高校野球埼玉大会

(22日・県営大宮ほか)

 第11日は2球場で5回戦4試合が行われ、Bシード川越東が早大本庄を6−3で破り、12年ぶりのベスト8入り。西武台はシードの昌平を8−3で下し、9年ぶりの準々決勝に進出した。

 川越東は一回に高梨の2点二塁打などで3点を奪い、先発猪岡の好投で逃げ切った。西武台は三回に高橋の適時三塁打などで3得点し、その後も着実に加点した。

 春日部共栄は4−3で南稜を退け、2年連続のベスト8に入った。四回に原の適時打で勝ち越し、2番手の鎌田が好救援した。Aシード花咲徳栄は六回に一挙5得点を挙げて富士見に11−2で快勝し、3年ぶりの8強に入った。

 第12日は23日、県営大宮など2球場で5回戦の残り4試合が行われる。

花咲徳栄、狙い絞り均衡打破

 花咲徳栄がAシードの貫禄を示した。得点したのは2回だけだが、六回に5点を先制すると九回にも6点追加。岩井監督は「先発投手は予想外だったけれど、狙いを徹底できた」と勝因を挙げる。対応力の高さは、優勝候補にふさわしい。

 富士見の先発は、今大会初登板だった右横手の本田。2、3回戦を完投し、花咲徳栄が練習で対策をした左腕エース清水でもなければ、4回戦で5回を無失点に封じた右腕の飛田和でもなかった。指揮官は互いに無得点の五回終了後のグラウンド整備の時間を利用し、意思統一を図った。

 六回、効果は早速表れた。先頭の9番田中が内角やや低め直球を振り抜くと、右翼席に飛び込む先制ソロ。1番の佐藤は甘いスライダーを左前打して続き、2番の大塚も粘って四球を選んだ。岩井監督は「あの回は2番までで決まったようなもの」とうなずく。

 1死満塁で5番橋本が走者一掃の右中間三塁打。6番の木内が代わった2番手川口から、スクイズを決めた。荒れ球の本田を攻略するため申し合わせたのは、まず外角球を逆方向にはじき返し、内角へ抜けてきたら思い切り引っ張るということ。公式戦初本塁打の田中は「しっかりと体の軸を回転させてスイングできた」とほおが緩む。

 初戦の2回戦こそ市川口に5−4の辛勝だったが、3、4回戦をコールド勝ち。富士見にも快勝で8強入りした。それでも、チーム随一の好打者でもある佐藤は「つなぎの意識はまだまだ。ミスも多い」と反省。9年ぶりの夏の甲子園を目指す選抜大会出場校は、着々と足場を固めている。

◇川越東、先制攻撃で勝負あり

 最後は早大本庄に追い上げられたものの、危なげなく逃げ切り勝ち。川越東の阿井監督は「初回に集中打が出たのが良かった」と立ち上がりの攻撃をポイントに挙げる。

 相手先発の左腕・井田に対し、先頭の猿田が四球で出塁。続く城下、鈴木の連打で1点を先制すると、4番高梨が2点二塁打を放ち、無死からいきなり3得点した。

 実は先発を読み違えていた。「右(投手)かと思っていたけれど、前の栄北戦も左だったし、右も左も打ち方は変わらない。ポイントが違うだけ」と阿井監督。高梨は「意識せず前の試合のまま入った」と予想外の事態にも平然と対応した。

 春から打撃には特に力を入れた。球を打つより素振りを増やし、強い打球を打つことを心掛けてきた。高梨は「自分のポイントで積極的に打つ。あとは三振を減らすこと」と狙いを挙げる。阿井監督も「効果的な打撃が多かった。春とはものが違う」と自信を示す。

 リードに守られて先発猪岡も七回まで0を並べた。八回に併殺の間に1失点。九回には2死から連打を浴びて2点を失ったが、最後は土肥が救援して締めた。猪岡は「九回は完投を意識して少し焦った。暑かったけれど、直球は低めを意識して、内角を突けていた」と内容には満足する。

 これで1998年の西埼玉大会で4強に入って以来、12年ぶり県8強まで来た。阿井監督は「大変なブロックを勝ち抜き、選手たちはよくやっている。でも、まだ半分」と気を引き締める。選手の気持ちも同じで、「まだ通過点」と高梨。やみくもな過信ではなく、チームは勝利するごとに確かな手応えをつかんでいる。

春日部共栄、臆せず焦らず諦めず

 春日部共栄は勝負強い。16年ぶりの5回戦で波に乗る南稜の追撃をかわし、1点差の接戦を制した。3試合連続の1点差勝利に、30回目の夏を迎えた本多監督も「こんな接戦続きは記憶にない。しんどかった」と苦笑いした。

 一回に2点を先制したが、二回に3点を奪われ、早くもエース鎌田を投入せざるを得ない苦しい展開。それでも、四回に三塁打犠飛と連打の一気かせいの攻撃で2点を奪い再逆転した。

 だがすんなりとは勝たせてくれない。七回に1死満塁のピンチを切り抜け迎えた九回。2死二、三塁と再び一打逆転の大ピンチ。打者は4番山崎。ここで鎌田は帽子をとり、スコアボードを見ながら心を落ち着かせた。「焦らず攻めよう」。こん身の直球でバットに空を切らせた。

 苦難の再出発だった。春の県大会は2回戦で敗退。本多監督はグラウンドで全力疾走を怠ったり、気持ちが前面に出ないという理由で3年生に“引退勧告”をした。

 翌日から主将の鎌田を中心に3年生が全力疾走を徹底し、下級生を引っ張ってきた。鎌田は「どん底からはい上がってきた分だけ相手より強い」と自負する。本多監督も「ピンチの場面を楽しめるようになってきたのが成長の証し」と目を細める。どんな状況になってもマウンドに集まるナインから笑顔が絶えることはない。

 準々決勝の相手はBシード川越東。捕手の原は「相手は関係ない。臆することなく、立ち向かっていきたい」と意気込む。一戦ごとにたくましさを増すノーシード春日部共栄の挑戦はひとつのヤマを迎える。

西武台、勢い十分ノーシード

 投げた。打った。守った。シード相手に臆することなく真っ向勝負。攻守で敵を圧倒して、ノーシードの西武台が9年ぶりの8強入りだ。勝山監督は「点数の取り方がいい感じ」とほおを緩ませた。

 監督の言葉通り、初戦の2回戦から3試合で計33安打だった打線が、この日も13安打と爆発した。勝山監督の「ひきつけて打て」を号令に二回に渡辺のタイムリーで先制すると、同点とされた三回にすかさず3得点。4番高橋の適時三塁打と小穴、西山の連続タイムリーで流れるように得点し主導権を握った。

 味方が援護してくれたリードを支えにエース市川が踏ん張った。6−2の五回2死満塁のピンチで打席には昌平の主砲岩崎。これまでの3試合で6安打6打点の強打者だ。

 厳しい場面で市川は帽子をのぞいた。黒々と書かれた「心一つに」の文字。右腕に力が沸いた。「自信のある球を投げて打たれたらバックが守ってくれる」。一番の武器、外角のスライダーで勝負。岩崎のバットは空を切り、空振り三振に打ち取った。

 ノーシードから8強まで突っ走ってきた。要因を問われた選手たちは「チームワーク」と口をそろえる。普段から先発、控えに関係なく言いたいことを言い合い、課題に一つ一つ取り組んできたという。

 「市川がここまで頑張ってくれたから、守備も打線も奮起できた」と渡辺。市川は「みんなが打ってくれたから楽に投げられた」と笑う。「心一つに」。それが躍進のキーワードだ。

埼玉新聞