野球をやりきった 飯能南3年・鈴木樹遊撃手

 左ひざのあたりに1センチ程の穴が残ったまま。母ひとみさんは「穴は球児の勲章だから」とあえて縫い合わせなかった。ユニホームの下の包帯は泥だらけになっていた。

 3回戦のクロスプレーで相手のスパイクが左ひざ上に食い込んだ。深さ1・5センチ、長さ6センチにわたり肉がえぐれた。テーピングで止血する応急措置で試合に出続けたが、試合後に傷口を5針縫った。

 今年3月は、野球をやめようと思っていた。1年の秋にレギュラーの座を獲得したが、その冬に左手小指のけがでレギュラーを外された。その後も調子が上がらず、気持ちが腐りかけ、練習のつらさに「やめよう」と考えた。その時、ひとみさんの「あなたには野球しかないんだから」との言葉にハッとしたという。遊撃手として出場した春の地区予選は自らの失策が原因で敗退。「次こそは」との思いが、背中を押してくれた。

 4回戦。監督から「切り込み隊長」と期待され、けがを押して出場したが、ヒットが出ずにチームもサヨナラ負けした。来年は就職し、小学3年から続けた野球からは「卒業」するという。試合後、「泣くかと思ったけど涙は出てこなかった。悔しい思いよりも、野球をやりきったから」と腕で汗をぬぐった。

毎日新聞埼玉版)