最後の夏 大きな財産 蓮田松韻2年 渡部一樹選手

 「試合終了!」。あふれる涙を帽子を目深にかぶって隠した。まだ2年生だが、これが最後の夏。ラストゲームは3打数無安打だった。「ちょっと悔いが残る」

 定時制高校の軟式野球部員だった。物足りなさを感じていた時、熱血指導で聞こえる内迫博紀監督の名を耳にし、1年遅れだが、蓮田松韻を受験した。高校野球の規定に年齢制限があり、出場機会が限られることも覚悟してのことだった。

 入ってみると、監督の愛のムチにしばしば音を上げそうになった。練習試合でマウンドに上がりKOされた日には、「気持ちが入っていない。初心に帰れ」と、かつて通った定時制高校との往復20キロを走らされたうえ、再び登板させられた。

 エースの座は逃したが、4番の座を射止めた。期待されている喜びで胸が高鳴った。残念ながら最後はその期待に応えられず、救援登板でも相手の猛攻を止められず不本意な結果に終わったが、「良い人たちに恵まれた」この1年半の野球部生活は、何物にも代え難い財産になった。

 「野球はみんなで力を合わせてやるから楽しい」。来年はコーチとして、この舞台に戻って来ようとも考えている。

(読売新聞埼玉版)