仲間と探した恩返しも… 大井3年・島津拓真投手

 一回表。適時打で先制された場面で、左ポケットに忍ばせたお守りを握りしめた。「まだ1点。大丈夫だ」。昨夏、強豪浦和学院の主将だった兄裕真さん(19)が、5回戦で敗れた直後、弟の拓真君(17)に託したお守りだった。

 小学2年で兄と一緒に野球を始めた。別々の高校に進学し「甲子園をかけて対戦しよう」と挑んだが、約束は果たせなかった。

 その直後、兄を追いかけるように主将に。ところが部員の暴力などの不祥事で6カ月間の対外試合禁止処分を受けた。「大井の(校名の入った)カバンは持ちたくない」と家族に漏らした拓真君に、兄は「お前らができることを探せ」と言った。

 三回、3点をリードされリリーフでマウンドに向かう時、ベンチの仲間の顔を見た。「勝って支えてくれた人に恩返ししよう」。仲間と探した「できること」は3回戦で途絶えたが、試合後、兄からメールが届いた。「野球が最後じゃない。これからがスタートだ」

◇「ハンバーグ」後輩に手本 大宮北3年・市川晋也一塁手

 四回表、2死走者なしで迎えた第二打席。花咲徳栄のエースの初球、外角直球を思い切りたたいた。白球が中翼手の頭を越えるのを見て、二塁をけり三塁に頭から飛び込んだ。「ハンバーグ」。ユニホームが真っ黒になるまで練習するため付いたあだ名そっくりの姿で何度もガッツポーズした。

 身長168センチ、体重87キロ。背番号13番で、スタメンでは公式戦初出場の一振りに、堀本豊監督(42)は「後輩の手本。やればできることを示してくれた」とたたえた。

 高校入学時は体重96キロ。友人からは「その体格のお前にできるのか」と言われた。練習の長距離走で置いて行かれ「またあいつだけ遅い」とチームメートの足をひっぱった。

 それでも冬に1人で走り込み、居残り練習で素振りを繰り返した。

 試合後「入部したころの自分なら、二塁で止まっていました」と笑った市川君。球場の外に出て応援の同級生らの前で「ありがとうございました」とあいさつすると、腕で目をこすった。

毎日新聞埼玉版)