川越東、昨年の覇者破る 高校野球埼玉大会

(17日・県営大宮ほか)

 第7日は6球場で3回戦16試合が行われ、Bシード川越東が昨年覇者の聖望学園に8−2で快勝。春日部共栄は延長の末、9−8で川越西にサヨナラ勝ちした。

 川越東は鈴木の先制適時打など15安打を放って聖望学園の6人の投手陣を打ち崩した。春日部共栄は延長十二回、代打今津が決勝の中前適時打を放ち、乱打戦を制した。

 富士見はエース清水が15奪三振を見せ、Dシード秩父農工科に5−1で快勝。桶川はDシード大宮西を4−1で下した。

 第8日は18日、県営大宮など6球場で3回戦残り16試合が行われる。

聖望学園、昨年王者がまさかの3回戦敗退

 昨年王者がまさかの3回戦敗退。試合後、泣き崩れて言葉も出ない選手たち。二回途中で降板した先発滝瀬は「甘いコースに入った球を打たれた。3年生の夏を終わらせてしまって謝ることしかできない」とうなだれる。控えの選手らの励ましを受けて抱き合い、ようやく気を持ち直していた。

 岡本監督は「防戦一方で攻撃できなかった。失点を防ぐことに必死で野球にならなかった」と試合を振り返る。

 監督が敗因の第一に挙げるのがチームの「甘さ」。象徴的なのが二回無死二塁、土肥のプッシュバントが一塁側の小飛球になったのを、誰も突っ込んで捕りに行かず、お見合いになった場面だという。昨年、守備の堅さで夏を制した聖望学園だが「勝利への執念が足りない」と監督は分析。その回さらに2点の「致命傷」を負った。

 昨年の甲子園経験組の永田と片岡がけがで出遅れたのも響いた。永田はひじの故障で今夏から野手のリーダーに。試合後「本当は甲子園で投げて勝ちたかった」と悔しさをあらわにした。

 岡本監督は「最後に意地を見せてコールドにならなかったのは良かった。センターラインは2年生なので、この経験を来年に生かしてくれると思う」と期待を語った。

春日部共栄、チーム一丸で雪辱

 延長十二回裏2死二塁、代打今津のバットにチームの思いが乗り移った。強くたたいた打球は二塁手のグラブをはじき中前へ。春日部共栄が激闘に終止符を打った瞬間だった。本多監督は「よく頑張った」と安堵の表情を浮かべた。

 川越西には春季県大会2回戦で、右下手投げの野田の術中にはまり1−3と苦杯をなめていた。抽選会後は、再戦を予想し、下手投げの遅いボールを打つ練習を繰り返してきた。それが功を奏し、八回までに8点を奪った。しかし、頼みのエース鎌田が踏ん張れず、九回に1点差まで迫られた。

 この苦しい場面でチームを救ったのは公式戦初登板の寺田。九回にリリーフすると、同点には追い付かれたものの、打たせて取る投球で勝ち越し点は与えなかった。背番号20は「楽しめた」と好投に笑顔を見せた。

 春以降、バッテリーを中心とした守備力を鍛え直し、話し合いで甲子園に行くためには最後まであきらめない強い気持ちが大事だと再認識した。

 チーム一丸でリベンジを達成した。主将も務める鎌田は「みんなに助けてもらったから、今度はみんなを助ける」。苦しんで勝った分だけチーム力は高まっていくはずだ。

◇「さえる七色の変化球」15奪三振でシード校撃破 富士見

 七色の変化球が次々とバットをすり抜けた。左腕のエース清水が15奪三振でDシード秩父農工科を撃破。これで公式戦先発2試合目というから、度胸の方も大したものだ。

 本人は「打たせて取ろうと楽な気持ちで投げたら、結果的に三振が取れただけ」と謙遜するが、山崎監督は「高校に入って一番球が速かった」と絶賛する。決め球の直球に、シュートやスライダーなど4種類の変化球を織り交ぜ打線を翻弄。15個中空振り三振は14個。いかに切れが良かったのかが分かる。1回に1失点したが、散発2安打と完ぺきな内容だった。

 野手からの転向組。山崎監督と二人三脚でいろんなフォームを試し、「足を素早く上げて身体の軸をつくる」現在の形にたどり着いた。春は調子を落とし、背番号1を渡されたのは今大会直前。「練習試合で強豪校を2、3安打に抑え、自信が付いた」と、山崎監督は太鼓判を押す。

 2回戦の秀明英光戦では10奪三振。「K」の山を積み上げているが、左腕にとっては優勝への過程にすぎない。「次も三振にこだわらず、チーム一丸となって勝つ」。心強い言葉に決意がにじむ。

 身長179センチ、体重74キロ、さいたま七里中出身。

◇越ヶ谷、背番号「11」にささげる1勝

 「お前の分も頑張るよ」―。越ヶ谷のベンチには千羽鶴と並んで背番号「11」のユニホームが飾られていた。それは小野寺将真捕手のものだ。17日の3回戦前日に病が明らかになり、小野寺捕手は泣く泣く不出場。気持ちを受け継いだチームは小鹿野に24−1で六回コールド勝ちした。

 「苦しい、苦しい」。数日前、小野寺捕手はぜえぜえと息を途切らせながら練習に励んでいた。つらそうな様子を見かねた山沢賢勇主将は「もうやめろ」と声を掛けたが、背番号をもらった責任感からか、小野寺捕手は練習をやめなかった。

 3回戦前日の16日、小野寺捕手は母親と一緒に、沢田勉監督(47)の元を訪れた。肺に穴が開いていることを報告。医師からは、7日から10日間の絶対安静を告げられていた。顔には無念の色がにじむ。4月の練習試合で右手薬指を骨折して復帰したばかり。一人黙々とウエートトレーニングに励み、走り込んでやっと手にした控え捕手の背番号。沢田監督は「お前が一番悔しいのは分かっている」と心中を思いやった。

 その夜、後藤克哉投手が小野寺捕手の家を訪れた。吉川中央中時代からバッテリーを組む2人。「一緒に戦いたい」とユニホームを預かりに来た。ナインは迷わず、ユニホームをベンチに掲げた。白球を追い掛け、支え合ってきた仲間。チームは躍動した。

 二回、打者一巡の猛攻で6点を奪うと、四、五回には計4点を追加。六回には14点を奪って24−1でコールド勝ち。後藤投手は6安打1失点で完投。「小野寺はまじめで一生懸命なやつ。あいつの分も頑張った」と後藤投手。チーム一の4打点を挙げた高橋圭介選手は「一緒に戦っている思いは強かった」と晴れやかな表情で振り返った。

 沢田監督は試合後に初めてユニホームに気が付いたという。「勝ったこと以上に仲間への思いがうれしい」と破顔一笑。思いやりと勢いを手にしたチームは、19日の4回戦で優勝候補筆頭の花咲徳栄と対戦する。「一生懸命戦うところを見てくれ」と山沢主将。小野寺捕手に勇姿を誓った。

埼玉新聞