先輩が誇れる母校に… 浦和実1年・鈴木琢磨投手

 「いい投球だったな」。三回裏、1年生の鈴木琢磨君がマウンドを降りると、背番号「1」を付けた3年生の菊池健太君がベンチ前で鈴木君の肩を抱いた。「先輩すみません」。帽子のつばを下げ涙を流した。

 「お前の調子は尻上がりなんだから、明日は試合前に長めにアップしろよ」。前日の練習中、調子が上がらず救援に回った菊池君からアドバイスされた。相手は関東大会2連覇の浦和学院打線。立ち上がり2点を失ったものの、二回は併殺に打ち取るなど0点で抑えた。だが、打線が2巡目に入った三回裏に連打を浴びた。「勝てると思ったのに。やっぱり浦学は強いです」

 1カ月前、辻川正彦監督(45)は、エースで3年生の菊池君ではなく、練習試合で好投した鈴木君を先発指名した。菊池君は、悔しさを隠してマウンドに立つ後輩にアドバイスを送った。

 試合後、菊池君から「お前の代はもっと強くなる」と励まされた鈴木君は、「卒業した先輩が『自分の母校は強い』って誇れるようにもっと強くなります」と泣きはらした目で誓った。

◇「最後の試合」…楽しんで 上尾鷹の台3年・伊藤和輝投手

 「打たれて悪いな」。三回表。この回だけで12点目を奪われた直後、3年生の伊藤和輝投手(17)は、マウンド上で組んだ円陣でエラーが続いた内野手を気遣った。学校創立3年目で、部員5人の弱小チーム。「くよくよしないで思い切ってプレーしよう」と挑んだ最後の夏だった。

 部員5人では、ノックやトスバッティングなど練習メニューも限られる。練習試合も組めなかったという。しかし「最後の試合がしたい」とサッカー部やテニス部に応援を求め、6月に出場のめどが立った。

 34点を奪われた試合は、何度も窮地に立った。4連続四球を出し思わずスタンドに目をやると、バックネット裏にいた父和弘さん(44)が立ち上がり「低めに投げろ」と両手で合図していた。背中からは、伊藤君と2人しかいない3年生の二塁手、宗村雅人君(17)の「最後の試合だから楽しもうぜ」との声が聞こえた。

 野球を続けられたのは、励ましがあったからだ。和弘さんは「頑張りを見届けたかった」と仕事を休んで駆け付けた。

 最後の試合で、三振も奪った。伊藤君はこれから就職活動に入るという。「早く働いて家族に恩返しがしたい」。伊藤君の顔がほころんだ。

毎日新聞埼玉版)