1点もぎ取る執念の適時打 西村凌選手

 5点差を追う9回裏2死二塁。聖望学園の5番打者西村凌(3年)が打席に入った。

 「最後の打者にはならない。勝つためにつなぐ」

 内角直球を、詰まりながらも右方向へはじき返した。打球は、ふらふらと上がった。

 「落ちてくれ――」。願いながら走ると、右翼手の手前にポトリと落ちる適時打に。主将の子安史浩(同)が生還し、1点をもぎ取った。

 遊撃手としても、好守を見せた。2回表、右中間へ抜けた打球の処理を中継し、本塁へ送球。ランニング本塁打を防いだ。

 野球を始めたのは小学2年生の時。甲子園で勝つことが夢だった。母子家庭で、家計に負担をかけまいとして、どのように野球を続けていくか迷ったこともあった。それでも、母親から「自分の思ったことをやりなさい」と背中を押され、頑張って来られた。その母がスタンドから見守る前で、何としても勝ちたかった。

 夢の舞台は、土の感触を味わう余裕もなく、落ち着いたプレーはできなかった。「負けたけど、みんなと野球ができて楽しかった」と涙をにじませた。

朝日新聞埼玉版)

◇全国での1勝 厚い壁を痛感

 「勝つつもりだった」。チーム唯一のタイムリーを放った西村は言葉をかみ締めた。

 九回2死二塁、チームにもう後はない。インコースのストレートを狙った。「落ちてくれ」。ふらふらと揺れる打球に思いを込めた。右前適時打となり、最後にスタンドが盛り上がった。「1点取れたけど、野球をやり終えたと思えない。全国で1勝するための厚い壁を感じた」。悔しさともどかしさが次から次へと胸に去来する。「将来は大学などで野球を続けたい」と西村は話した。

埼玉新聞