大黒柱の不調響く 涙のサブマリン 浦和実

 2年連続の4強入りを目指した浦和実は川口青陵の前に、なすすべなく敗れた。右肩を痛めていたエース植木が五回で降板。大黒柱の不調はチームに波及し、最後まで歯車はかみ合わなかった。「無念です」。辻川監督はその言葉を何度も繰り返した。

 4回戦から右肩に痛みがあったという植木は、立ち上がりから不安定だった。二回に長打を2本浴びて2点を先制されると、四回にも3連打を許して1失点。

 植木の好投から打線が奮起するこれまでの“勝ちパターン”は完全に影を潜めた。先制されて浮足立った打線は結局4安打に終わり、三塁を一度も踏むことができなかった。継投した佐藤は踏ん張ったものの、最後は失策と暴投が絡んでダメ押しの1点を献上した。

 辻川監督は「植木で勝ってきたチーム。逆転を信じていたけど、植木が下がった時点で難しかったのかもしれない」と苦々しく振り返った。

 それでも秋、春と地区大会で敗れたチームの奮闘は色あせない。春以降「このままで終わったら悔しい」(辻川監督)の一念で夏に照準を合わせてきた。「すごく弱いチームだったから、あいつらはよく頑張った。またいいチームをつくって戻ってきたい」と指揮官。悲願の甲子園まで、もうひと踏ん張りだ。

埼玉新聞

◇涙のサブマリン

 全身をしなやかに使う右アンダースローで昨夏も県大会を盛り上げた浦和実のエース植木が、悔し涙をのんだ。「チームに申し訳ない……」。4、5回戦で2戦連続完封したものの、肩に痛みを感じ、この日は序盤から制球も球威も本調子ではなく、川口青陵打線のフルスイングにつかまった。今大会計38イニングを投げた右腕を、辻川監督は「疲労が蓄積されたのだろう。ここまで投げてくれて感謝」とねぎらった。

(読売新聞埼玉版)

◇手術から復帰 悔しくうれしい 浦和実・小林大貴選手

 4点差を追う9回裏。浦和実の先頭打者は、3番小林大貴(3年)だった。2安打と当たっており、何とか出塁しようと積極的に打って出た。しかし、結果は中飛。反撃の口火を切れなかった。

 試合後は誰よりも泣いた。「他の3年生よりも短かった」という選手生活を思い出したからだった。

 入部間もない1年の4月。練習中、右肩に激痛が走った。二塁手だった中学時代から投げ方が悪く、肩やひじを痛めていた。「投げない方がいい」と医師に言われ、練習に参加できなくなった。

 その年の8月に手術し、肩の3カ所にメスを入れた。走ることも許されず、監督の辻川正彦(44)からは、何度か「マネジャーをやれ」と言われた。だが、「選手として野球をやらせてほしい」と断り続けた。2年生の春にやっとキャッチボールができるようになったが、投げられた距離は約5メートル。それでも復帰をあきらめなかった。

 代打や、長い距離を投げなくてもいい一塁手として練習試合に出始め、得意の打撃でアピール。仲間に内緒でジムに通い、体を鍛え、定位置を射止めた。

 この日の守備は、6回から投手の植木龍之介(3年)が一塁に入り、小林は二塁に回った。かつての慣れ親しんだ位置で、2度の二ゴロを無難にさばいた。「二塁を守れてよかった。肩は痛まなかった」。それがうれしくて、また涙が出た。

◇思い風に乗れ 赤色が揺れる 浦和実、バルーンスティック

 浦和和実の応援席では、保護者ら約200人が、真っ赤な細長い風船「バルーンスティック」を両手に持って声援を送った。最後列では、黒い学生服を着た稲垣真吾君(1年)と高橋智樹君(同)が、それぞれ長さ3メートル超の校旗を掲げた。

 バルーンスティックはバレーボールの応援などではおなじみだが、高校野球ではあまり使われていない。野球部OBの保護者らが「他のチームにないものを」と発案し、今年から登場した。好機には、スタンド中で色鮮やかに揺れた。

 うだるような暑さに加え、時折、一塁側から三塁側に強風が吹き、旗手の稲垣君と高橋君を苦しめた。「冬服だし、暑いし、風で倒されそう。でも、重大な役目。責任を感じます」

朝日新聞埼玉版)