「公立強豪」引っ張り快音 市立川越3年 林隆太主将

 打席では「おまえに任せたぞ」という、仲間の声に背中を押された。1点を追う九回一死走者なし。「どんな球が来ても、必ずチャンスを作る」と、初球を振り抜いた。左越え二塁打。結局、同点のホームは踏めなかったが、会心の当たりを飛ばせた。

 「最後、ナイスバッティングだったな」

 試合後、新井清司監督から、初めて褒められた。高校生活を通じて、怒られた記憶しかない人から、「一生の宝物」と思える言葉をもらった。

 公立の強豪と呼ばれるチームで1年生からベンチ入り。昨夏の大会が終わると、主将に就いた。だが、格下相手にも練習試合で負け続けた。そうなると、昨春の県大会優勝など、過去のチームが残してきた実績が、重くのしかかる。練習中、うつむいて声を出せない日が増え、しばしば仲間に八つ当たりした。

 秋も深まった頃、同じ学年のほぼ全部員から「抱え込むなよ。俺たちも一人一人がキャプテンのつもりで頑張るからさ」と声を掛けられ、やっと吹っ切れた。「チャレンジャーとして戦っていこう」と。少しずつ、一体感が育まれてきた。

 「弱いと言われ続けてきたのに、ベスト8まで残った」。仲間たちが泣き伏す中、リーダーは涙を必死にこらえた。

(読売新聞埼玉版)

◇攻守でミスに泣く 市立川越

 10安打を放ちながら併殺やバント失敗などの“拙攻”が続いた。上尾戦の1点差、大宮東戦の2点差をはねのけてきた市川越らしさを出せぬままゲームセット。新井監督は「1死満塁の好機3回をものにできなかった。私のミス」と、大会で急成長した選手らをかばった。

 「チャンスの後にピンチあり」。言葉そのままの展開だった。四回1死満塁の先制の好機に、6番川野が二回に続きバントを打ち上げ併殺。その直後に1点を失うと、浮足立った守備を突かれ、五回には暴投などのミスで2点を奪われた。

 それでも六回、敵失を足掛かりに持ち味の集中力を発揮。4連打で同点に追い付くが、またも併殺が勝ち越しの壁となり、七回の失点を招く。併殺の今村は「打席前、監督から(バントでなく)打たせると言われた。期待に応えたかったのに」と、勝敗を分けた打席に涙が止まらない。九回2死三塁も、「うまく打てた」という江沢の飛球は左翼手正面。力尽きた。

 本来の力を発揮できなかった攻撃陣。しかし、林主将は「川野は2年。3年生の夏を何とかしたかったんだと思う。感謝の言葉しかない」ときっぱり。“弱っちいチーム”(新井監督)が8強に躍進した理由を垣間見た気がした。

埼玉新聞