静かな闘志、全開 春日部共栄・中村投手

 五回表1死。65球目だった。内野ゴロに打ち取った当たりが、一塁ベース手前で大きく弾む。右前に転がり初安打。無安打無得点が途切れた瞬間だった。

 だが、ここからがエースの真骨頂だ。右腕を鞭(むち)のようにしならせると、直球がひざ元で鋭く伸びた。竹生を1球で一邪飛に打ち取り、続く西牧は直球で見逃し三振。「動揺はなかった。一つ一つ取れれば」と平常心を貫く。

 躍動感がみなぎった六回はアクセル全開だった。1死後、2番柴田を直球で見逃し三振。3番猪又にも直球勝負。空振りで三振を奪い、小走りでマウンドを駆け下りた。

 中学3年時、Kボールの埼玉県選抜に選ばれて全国制覇。日本代表としてアジア大会3位の実績を引っ提げ、鳴り物入りで入学。ただ、当初は体重がわずか62キロの「もやしっ子」(本多監督)にすぎなかった。それでも、体重増加と同一曲線を描くようにして、直球は最速145キロまで伸びた。

 本多監督が「中里(現中日)よりも変化球はいいし、古川(現巨人)と同じぐらい強いハートがある」と評するほどの逸材に成長した。

 静かに闘志を燃やすタイプだ。「きょうは四球も出したし、最後は少しばてた。課題を反省し、次はもっといい投球をしたい」と向上心を忘れない。右腕は8強よりも大きな夢を背負っている。

 身長184センチ、体重75キロ。春日部武里中出身。

埼玉新聞