兄の背中 追い続け 鷲宮3年 小森直矢選手

 1点差で負けていた七回裏、登板機会がやって来た。「技術では相手にかなわない。気持ちを込めて、体全体で投げよう」。無我夢中で腕を振る。練習では全然ストライクに入らなかったというスライダーが、次々と決まった。ざわめく球場。そのたびに、1メートル61の投手は「ヨッシャー!」と大声をあげた。

 投手として、二つ年上の兄・和真さん(19)の背中を追い続けてきた。2年前の夏、川越東の投手だった和真さんは、夏の大会でチームを逆転勝利に導いた。ひじのケガをおして、終盤のピンチで3者連続三振を奪う兄の姿を見て、しびれた。

 背が低い。周りに比べてスタミナがない。そのため、エースになる夢には届かず、一塁を守っている。でも、「あの時の兄のように、気持ちの入った球を投げたい」と、マウンドへの情熱を燃やし続けてきた。

 七回の二死満塁でも「兄の姿は頭にあった」。気がつくと、相手の4番打者を三振に取っていた。2回を無失点。逆転勝利とはいかなかったが、試合後、「自分にしては十分。悔いはありません」と胸を張った。

 スタンドで応援していた兄は、目を泣きはらしていた。あこがれの人に「すばらしい投球だった」と認めてもらえた。

(読売新聞埼玉版)