浦学1点に泣く 聖望8強 花咲も苦杯 高校野球埼玉大会第10日

 第91回全国高校野球選手権埼玉大会の5回戦は22日、本県初の4連覇を狙った春の関東大会王者・浦和学院が姿を消す波乱があった。昨秋の県大会を制した花咲徳栄も苦杯を喫した。両チームを破った聖望学園、春日部東に加え、本庄一、市立川越も8強入り。23日に、ベスト8の残り4校の顔ぶれが決まる。

 聖望学園は初回無死一、二塁、子安のバントが相手捕手の悪送球を誘い、1点先制。続く城戸が犠飛を上げて2点目を奪うと、三回にも敵失から貴重な2点を追加した。左腕佐藤は完投勝ち。浦和学院は七回に山崎が左越え本塁打を放つなど追い上げたが、あと1本が出なかった。

 春日部東は1点を追う七回、安打や四死球で走者をため、小山が同点の押し出し四球を選んだ。続く千葉に右前勝ち越し打が飛び出して2点を奪い、逃げ切った。先発の千葉は8奪三振、1四球で完投。花咲徳栄は五明の適時三塁打で先制した四回を除き、快音が少なかった。

 市立川越は1点を追う四回、今野の左前適時打で追いつくと、五回には江沢の適時打で勝ち越し。その後も吉川の適時三塁打などで小刻みに加点し、投げては今村―高橋のリレーで3点に抑えた。大宮東は3試合計29回を一人で投げ抜いてきたエース竹沢が、中盤以降は力尽きた。

 本庄一は三回一死二、三塁から、田村の左前適時打と小林のスクイズで2点を先取。五回は奥田の右中間三塁打で加点した。先発の左腕萩原は9回を投げ抜き、2失点の好投。鷲宮は六回、中村が右越え本塁打を放つなど、終盤は1点差まで詰め寄ったが、適時打が出ず、涙をのんだ。

◇慣れぬ接戦 輝き失う 浦和学院

 埼玉の高校球界にあって、夏の甲子園に3連続出場した浦和学院「太陽」とすれば、同校が振るわなかった昨春、全国準優勝した聖望学園は「月」と言えるかもしれない。それぞれに輝いてきた両者の軌道が、夏の県大会で5年ぶりに重なった。そして――。

 開始直後から、いつもの浦和学院ではなかった。

 左腕エースの羽倉優太朗が四死球で2人を続けて歩かせ、その乱調が2年生捕手・久保翔平の焦りを呼ぶ。無死一、二塁から、バント処理を急いだ久保が三塁へ悪送球。「力んだ」と羽倉が言えば、久保は「先制点を与えたくなくて焦った」。捕逸犠飛で、さらに2点目も失った。1安打も浴びないうちに。

 悪循環は、投手を代えても続いた。三回二死二、三塁。二番手右腕の真島健が打たせた凡ゴロを三塁手の石田大樹が捕る。だが、送球は一塁手の頭上を大きく越えていった。痛恨の二者生還で、点差は4に。「三塁走者が走るのが見えて……」と、石田は悔やむ。

 同校にとって異常な時間帯は、久保が二塁走者をけん制で刺す好プレーで終わりを告げた。五回には石田も美技。ナインは打撃でも粘りを見せ、八、九回は、相次いで1打同点の好機も作った。

 だが、及ばなかった。ここまで3戦すべてコールドで勝ち進んだが、裏を返せばチームは接戦から遠ざかっていた。主将の島津裕真は「リードした形での試合が多かったので動揺した」。感覚が鈍っていたのか。ナインは最後まで、いつもの堂々とした輝きを取り戻せなかった。

 県営大宮球場は、雨上がりの曇り空。日食を見るのは容易ではなかった。落ち着いた光を放つ月の前に、太陽がすっぽり覆い隠されたような試合が、グラウンド上に展開されていたけれども……。

◇強気の投球で殊勲 聖望学園

 3投手をつないだ優勝候補筆頭の浦和学院を相手に、聖望学園のエース佐藤はたった1人で投げ勝った。強力打線に10安打を浴びながら、強気にインコースを突いて踏ん張る。九回二死三塁、力を振り絞った直球で、相手の4番を凡フライに打ち取ると、両腕を突き上げて喜んだ。

 殊勲の白星に、すっかり自信をつけたらしく、試合後は「自分がゲームを作る。目標は埼玉県制覇」。昨春の甲子園決勝マウンドも経験した左腕の活躍に、岡本監督も「ようやく花開いたな。もう今大会は佐藤と心中です」と相好を崩した。

◇2捕手併用、活力に 市立川越

 市立川越は先発した背番号12の2年生捕手・丹羽が随所に好リードをみせ、投手陣を引っ張った。四回には走者を三塁まで進められたが、相手のスクイズを読んでピンチを救い、バットでも二塁打を含む2安打と活躍した。初戦と4回戦で先発マスクをかぶった3年生の松本について、「いい刺激になる」と丹羽。一方の松本も「丹羽に負けたくはないが、試合に出なくてもベンチから大声で盛り上げたい」。2人のライバル心を活力にしながらの8強入りに、新井監督は「刺激し合うのはいいこと」とご機嫌だった。

◇花咲封じた気迫のエース

 春日部東の3年生左腕・千葉周は、最後の打者を三振に打ち取ると、マウンド上で大きなガッツポーズを見せ、雄たけびをあげた。強豪・花咲徳栄を、被安打5の1失点。勝利の立役者だ。

 空回りしやすい質(たち)でもある。エースの座に色気を出した2年生の冬、ライバルに差をつけようと、毎日約20キロの長距離走を始めたが、数週間後に左足親指の骨を折った。今大会の3週間前にも「最後の夏だ」と、練習で無理なダッシュ走を繰り返し、右足太ももを肉離れした。

 痛い目に遭いながらも背番号1を守り抜いた末に、会心の完投勝利を手にした。

 「相手は自分の投球を研究したはず。それ以上の力を出そうと、初回から飛ばした。少し疲れた」。後先を考えない、がむしゃらな気迫がよく似合うエースだ。

(読売新聞埼玉版)