初回満塁弾、集中きらさず 熊谷商・小野将輝選手(3年)

◇仲間と信頼しあえた

 右中間を深々と破っていく打球を、熊谷商の小野将輝一塁手(3年)はじっと見つめた。夏が終わった。マウンド上で崩れ落ちたエース、川崎勇太投手(同)のもとへ真っ先に駆け寄る。そして、何度も繰り返した。「今までよく投げてくれた。ありがとう。ありがとう」

 相手は強豪・春日部共栄。川崎投手を楽にさせるために、どうしても先制点が欲しかった。その好機は初回からやってきた。1死満塁、2球目のスクイズはファウル。江原正幸監督のサインは「打て」に変わった。

 「切り替えるしかない。とにかく強い打球を打つ」。その一心で低めの変化球を強振すると、スタンドを埋め尽くした観客の度肝を抜く、満塁の本塁打となった。

 4点先制、それでも油断はできない。ベンチでは「相手は強い。まだ0対0だと思おう」と仲間に呼び掛け、気を引きしめた。

 7回裏、同点に追いつかれ、さらに1死満塁のピンチ。ここでも集中は切らさなかった。「自分の所に飛んでくる」。直感した通りのライナーを好捕すると、そのままベースに飛びついて一塁走者もアウトに。苦手な守備でも窮地を救い、「まだ勝てる」とチームを鼓舞した。

 甲子園の夢は消えたが、快進撃を続けたチームの一員として戦い抜いた。「悔しいが、仲間とお互い信頼しあって野球ができた」。表情は充実感で満ちていた。

朝日新聞埼玉版)