川越東、川越西下す 本庄一は連続サヨナラ

(21日・県営大宮ほか)

 第9日は雨天順延を2日挟み、3球場で4回戦の残り8試合が行われ、ベスト16が決まった。秀明英光はDシード埼玉栄を5−2で下し、10年ぶりの5回戦進出。2連覇を狙う本庄一はCシード市川越に延長十回、3−2で2試合連続サヨナラ勝ちした。

 シード勢はBシード浦和実が草加に2−0で完封勝ち。Cシード大宮東は春日部を7−4、Dシード鷲宮は蕨を6−0、Dシード浦和学院は武蔵越生を4−2で破った。昨年4強の川越東は川越西に4−2で逆転勝ち。成徳大深谷はコールド勝ちした。

 第10日は22日、県営大宮など3球場で5回戦8試合が行われ、ベスト8が決まる。

◇9回に鮮やか集中打 川越東

 2点を追う九回に5本の集中打で4点を奪い、苦しみながらも鮮やかな逆転勝利。同点直後の1死二、三塁で勝ち越し2点二塁打の二羽は「右方向へ打つつもりだった。自信はあった」と強気だが、2人が生還した瞬間は「うれしかった」と笑顔がはじけた。

 川越西・湯本の緩い変化球に八回まで散発4安打で勝機すら見いだせない苦しい展開。完投の永井は、2点を奪われた三塁打に「外そうとした球が甘く入った」と反省しきりだが、「味方が絶対打ってくれると思って投げた」。気持ちを切り替え、直球で押す投球で相手に追加点を許さなかった。

 粘りの投球は九回、自身の同点打で実を結んだ。「無心だった」と永井が振り抜いた打球は右前に落ち、その後の勝ち越し打も呼び込む大きな一打になった。終わってみれば投打の活躍。「出来過ぎです」。表情にやっと白い歯がこぼれた。

 打線が振るわず九回を迎える展開に、敗戦も覚悟したという阿井監督は「すごい力を持っているもんだ」と、選手の成長ぶりを頼もしそうに見詰めていた。

◇惜敗も躍進の夏 川越西

 昨年の4強の川越東をあと一歩のところまで追い詰めた。「強豪相手に大善戦。よくやった」。筒井監督の表情は晴れやかだった。

 五回1死一、二塁で打席には福島・双葉高から転校生の鎌田。「(チームメートの)安田が笑わせてくれて気楽になった」。振り抜いた打球は右中間を破り、2点を先制した。

 2年生左腕の湯本は切れのあるスライダーを武器に凡打の山を築いた。八回まで無失点。完封目前の九回「勝ちを意識し球が浮いた」。2連打を許し、山本に後を託したが踏ん張れなかった。

 主将の沖山は「全部出し切った」と潔かった。秋、春初戦敗退のチームは躍進を遂げた。湯本、山本の両投手はまだ2年生。「自分たちを上回ってほしい」と沖山は後輩に言葉を贈った。

◇隙逃さず逆転 浦和学院

 2点を追う三回に長短4安打を集めて一気に逆転。ワンチャンスで奪った4点を最後まで守り切った。

 三回、先頭の竹村が右前打を放つと、小林が二塁打で続く。沼田の遊ゴロの間に1点を返すと、2死一、三塁から7番笹川が中越え2点二塁打。笹川は「得点圏に走者がいたのでフルスイングするつもりで待っていたら、狙い球の直球が来た」とにっこり。続く石橋もタイムリーを放った。

 エース佐藤は、序盤に球が浮き2失点したが、逆転後は本来の投球が復活。「中盤以降はカットボールを中心に組み立てることができた」と、武蔵越生打線を寄せ付けず、五回以降は無安打の好投だった。

◇新藤力投 あと一歩 武蔵越生

 エース新藤が強打を誇る浦和学院相手に力投した。得点を許したのは三回だけ。4失点が悔やまれる。

 一回に難波の三塁打の後、吉田のタイムリーで先制。三回にも吉田がタイムリ二塁打を放ち2−0とリードした。

 だがその裏、エースが捕まった。先頭打者に安打を許したのをきっかけに長短4安打を浴び、4点を失った。「先頭打者を出して、慌ててしまった。もっと落ち着けば良かった」と悔やむ。しかし、四回以降はより緩急を意識した投球で、浦和学院打線をわずか1安打に抑え、追加点を許さなかった。「今まで以上に良い球を投げられた」と納得の表情を見せる。

 福田監督は「浦学は力あった」と振り返るが、「四回以降の新藤の投球は良かった。3年間の練習の成果が出たと思う」と褒めた。

◇想い一つに19安打 成徳大深谷

 先発全員19安打の猛攻で試合を決めた。春の大会後から4番に座り、4安打と大爆発した2年生の工藤は「スライダーをしっかり待って打てた」と頼もしい。秋春ともに地区大会で敗退。歴代で最も弱いチームだと自分たちに言い聞かせ「全てがプラスになるんだ」と苦難を力に変えた。

 メンバーから外れた3年生8人の献身的な支えもあり、「想い」をスローガンに夏を迎えたチームの雰囲気は徐々に良くなった。3打点と活躍した主将の森谷は「8人のためにも甲子園に」と意気込む。3年生の高津は「『想い』を一つに全員で勝った。メンバーに感謝したい」と話した。

◇エース水田不調 痛恨の7失点 浦和北

 「水田、どうしたんだ」―。応援スタンドから、そんな悲鳴が聞こえてきそうなゲームだった。

 エース水田が一回2死から死球を挟み、4長短打で3点を献上。二回にも3連続安打など5安打を浴び痛恨の4失点、出はなをくじかれた。2回を投げ切り降板した水田は「雨で試合が流れたりして、調子に乗り切れなかった」と言葉少な。

 3回戦では松山を熱投の末、8−5の逆転で撃破。勢いに乗って臨んだはずの一戦だっただけに、背番号1は「松山戦のように諦めず強い心をもって投げたが…」とうなだれた。

 救援した河口も相手打線に捕まりはしたが、まだ2年。水田から「笑って投げろ」とマウンドを託された河口は「来年はエースとしての実力をつけ、戻ってくる」と顔を上げていた。

◇被安打3の完封リレー 鷲宮

 2投手の継投で蕨打線を被安打3に封じた。エース増渕は「上に勝ち進むほど体力は消耗する。球数を少なく、打たせて取る投球ができた」と言い、5回戦以降を意識したピッチング。

 継投した栗田は今大会初マウンド。七回、増渕が2本目の安打を打たれ、走者を置いてのマウンドを託されたが、最初の打者を三振に仕留めるなど、落ち着いたマウンドさばきを見せた。

 栗田は「力が入った場面もあったが、持ち味は出せた」と自慢の安定した制球力に合格点。「これから先を勝ち抜くには継投が大事。自分がしっかり結果を出す」と闘志をみなぎらせていた。

◇攻撃野球が沈黙 来夏へ飛躍誓う 蕨

 持ち味の攻撃野球は鳴りを潜めた。鷲宮が誇る左腕・増渕のコースを突いた投球の前に凡打の山を築いた。「角度のある外の球に手を出してしまった」と主将の五十嵐。3打数無安打に終わった4番の平野は「直球もスライダーもよかった。自分の力不足」と悔しさをかみしめた。

 ここ数年は序盤で姿を消す夏が続いた。停滞した雰囲気を打破すべく「下克上」を旗印に躍進を誓った。昨秋は31年ぶりに出場した県大会で16強入りと確かな歴史を刻んだ。来夏は「4回戦で止まらないチームにしたい」と2年生の小浜。上原監督も「一段上に行きたい」と力を込め、新たなスタートを切った。

◇3度目の正直へ勢い 秀明英光

 Dシード埼玉栄を破り、10年ぶりに最高成績に並ぶ3度目の16強入り。秋山監督は「うちの理想の展開」と先行逃げ切りの必勝パターンに満足げ。

 同監督が「投げ急いでいた」と振り返る通り、高橋の投球は本調子ではなかった。それでも堅守に助けられ、9回を8安打2失点。主将の三塁手赤尾は「緊張するな」と笑顔で声を掛け続け、高橋は「あれで楽になった。赤尾が試合をつくってくれていた」と感謝した。

 5−1と4点リードの八回に連打と四球から無死満塁のピンチを迎えたが、5番松本の三ゴロを赤尾が本塁へ送り生還を阻止。続く鈴木良の強烈な当たりも、赤尾のグラブに吸い込まれて三直。この窮地を脱した。

 ともに指扇駅を利用する埼玉栄との「指扇ダービー」を制して勢いを得た。過去2度はいずれも5回戦の壁に阻まれただけに、指揮官は「歴史を塗り替えよう」と初の8強へ意欲満々。

 高橋も特別な思いがある。大宮東の左腕・吉嶺とは中学時代に対戦して敗れており、「高校では勝ちたい」とライバル心を燃やした。

◇響いた序盤の失点 埼玉栄

 ベンチ入り20人のうち18人をつぎ込んで逆転を狙ったが、序盤につけられた点差をはね返すことはできなかった。「最初の3点で流れを持っていかれた」と細淵監督が語るように、三回までの3失点が痛かった。

 最大のチャンスは4点差で迎えた八回無死満塁。大量得点に結び付けたかったが、続く2人が凡退し、7番高橋のタイムリーで奪った1点にとどまった。

 最後までリズムに乗れず4回戦で敗れた。主砲の石田は「ベンチの雰囲気はフワフワと浮足立つような感じ。甘く見ていた」と悔しがった。

◇驚き連続「出来過ぎ」 本庄一

 この土壇場でのしぶとさは何なのか。本庄一がまたもサヨナラ勝ちだ。初戦の2回戦で越谷西に終盤の逆転勝ち。3回戦では深谷一に逆転サヨナラ勝ち。そして、この日は市川越を延長十回の末に撃破。須長監督は「信じられない。こんな劇的な勝ち方は出来過ぎ。神様は優し過ぎる」と満面の笑みだ。

 決着は2−2の延長十回2死走者なしからだった。3番伊藤が二塁打を放つと、続く粶(はせ)が1ボールからの2球目のカットボールを捉え、三塁線を抜くサヨナラ適時打。粶は「自分が決めてやると思い、初球から狙っていった」と胸を張った。

 終盤の勝負強さが光る昨夏王者だが、それは前半から食らいつき、接戦に持ち込んでいるから。9回を6安打2失点に抑えた先発の萩原は「粘っていれば点を取ってくれる」。正捕手ながら今大会初マスクの岡野は「打たれても動揺せず一人一人をどう抑えるか」と直球主体で攻め立てた。

 八回に同点適時打を打たれたが、一塁走者が二塁をオーバーランしたのを見逃さず左翼手の志和が好返球で刺した。「本塁は間に合わないと思ったので、思い切って二塁に投げた」と志和。逆転のピンチを未然に防いだ。

 須長監督は「来た球を打つ。守れるものは守る。できることをちゃんとやろうと言ってきた」。一つ一つのプレーの積み重ね。それが逆転、サヨナラの基となっている。

◇昨夏の雪辱ならず涙 市川越

 延長十回、2死二塁。大岩根が内角高めの甘いカットボールを痛打される。打球が無情にも三塁手野瀬のグラブをはじいた瞬間、市川越の夏とともにエースの夏も終わりを告げた。その場にうずくまり、立てない背番号1。仲間たちに抱きかかえられ、整列に向かった。

 本庄一とは昨夏の準々決勝で対戦し、完投しながらも3−4で惜敗。人一倍リベンジに燃えていた。だが春季県大会で痛めた肘の回復が遅れ、この日もブルペンで出番を待った。六回終了後、新井監督から声が掛かると「いけます」と応え、八回からこの夏初めてのマウンドへ。直球を投げると肘に響き、ほとんどを変化球に頼らざるを得ない中、エースとして逃げずに最後まで攻め続けた。

 敗れはしたが、新井監督は「大岩根で負けたら仕方ない」と話し、主将の今村も「大岩根でいける自信はあったし、よく投げてくれた。あいつには感謝です」。誰一人エースを責める者はいなかった。仲間との記念撮影を終えると、ようやく笑顔が戻り、こう締めくくった。「来年こそ、本庄一に勝って甲子園に行ってほしい」