センバツへ・駆けろ球児/下 鷲宮高

◇練習重ね培う粘り

 「4分でやるぞ。よし行け」。掛け声と共に整備用のトンボを担いだ選手らがグラウンドに駆け出した。「しゃ、しゃ、しゃ」と軽快な音が響く。その様子を腕を組んで見守っていた柿原実監督は「勝てる喜びは一瞬。このために人の何十倍苦労できるか、努力できるか、心を込められるかが大切」と話す。鷲宮では、道具を大切にし、グラウンドをきれいに保つことの大切さを徹底させている。一つ一つのプレーを大事にする姿勢が、そこから生まれると考えるからだ。柿原監督は「強い弱いにかかわらずそういう姿勢を大切にすれば、一人一人もっと伸びるぞ」と選手に声を掛ける。

 県大会準決勝。浦和学院に2−12で六回コールド負けを喫し、柿原監督はベンチで「実力は相手が上かもしれないが、粘れる試合で粘れなかった」と選手を叱責(しっせき)した。鷲宮の県大会チーム打率は2割6分6厘。同じ県代表の浦和学院(3割5分8厘)、春日部共栄(3割2分6厘)と比べると低め。

 コールド負け翌日の3位決定戦。2点リードで迎えた八回表無死一、三塁。捕手の遠藤隼人主将が突如リリーフ投手としてマウンドに上がった。スタンドは一瞬ざわめいたが、柿原監督は「遠藤で負けるならいいよな」とベンチでみんなに確認した。1回3分の2を投げ1失点に抑え、関東大会出場を決めた。

 もともと投手志望だったが、入部後捕手に指名された。新チームでは主将に抜てきされたが、後輩を口頭で指導したのを「強く言いすぎだぞ」と柿原監督や周囲に指摘された時、感情があふれ「野球部をやめたい」と涙ながらに訴えた。「主将としてどう指導したらいいか分からなかった」。しかし「社会に出ても後輩は必ずいる。逃げていいのか」とコーチに言われ、踏みとどまった。主将になり3カ月。常に周囲を意識するようになった最近では、「周囲のみんなに感謝できるようになった」と笑う。

 「疲れで腰が浮いてきてしまう。整備のむらもあってまだまだ」。遠藤主将はトンボを握りしめ、こう続ける。「代々受け継がれ、練習の積み重ねで培われた『粘りの鷲宮野球』でここまでこれた」と胸を張った。

毎日新聞埼玉版)