市川越、坂戸西下す きょうから準々決勝

(23日・県営大宮ほか)

 第12日は2球場で5回戦の残り4試合が行われ、ベスト8が出そろった。Dシード市川越はBシード坂戸西に12−5で八回コールド勝ちし、2年連続の準々決勝進出。所沢北は所沢商に11−1で六回コールド勝ちを収め、6年ぶりの8強に入った。

 市川越は一回の丹羽の適時打を皮切りに、弥田が4安打3打点を挙げるなど19安打12得点の猛攻で打ち勝った。所沢北はエース戸谷が六回を4安打1失点に抑え、打っても2安打3打点と活躍した。

 一昨年の北埼玉大会覇者の本庄一正智深谷を9−6で破り、5年連続の8強入り。Aシード浦和学院鷲宮を6−2で退け、2年ぶりのベスト8を決めた。

 第13日は24日、県営大宮で準々決勝2試合が行われる。

◇市川越、猛打爆発19安打12得点

 打ちも打ったり19安打12得点。今大会好左腕の坂戸西・長島を攻略し、市川越が勝ち名乗りを上げた。ベンチ裏に姿を現した新井監督は「よく打ってくれた。こんなのは初めてじゃないかな」と大粒の汗を心地よさそうにふいた。

 一回2死走者なしから4連打で1点を先制。その裏に4失点したが、打線は湿らない。二回も2死走者なしから、今度は長短5連打を浴びせて4得点し逆転。これで勢い付いた打線は、三回に1点を追加、六回には再び4連打と犠飛で4点を挙げ、長島をノックアウトした。

 「外角に絞っていた。内角で三振を取られたら仕方ない」と新井監督。制球のいい長島の外に逃げるボールと低めのスライダーを見切り、外角ぎりぎりに来る直球を狙い打った。3安打の3番清水は「外は素直に右に持っていく。スライダーが甘く来たら引っ張る」と狙いを説明する。

 弥田、丹羽ら昨夏の3〜6番が残る強力打線を売りにしていた。そこに清水、橋本ら春に頭角を現した3年生が加わり、自慢の打線が完成。同監督が「本来一番いい打者」という江沢を6番に置き、塁上の走者を一掃する打順もはまった。

 冬場は5キロのプレートを持って体をひねり、股関節と体幹を鍛えるトレーニングを積んだ。多い日は20種目を20回。「終わってすぐ打撃練習に入ると、体が締まってヘッドが走る」と主将の丹羽も効果を実感する。

 「点を取られても取ってくれるので頼もしい」と2年生エースの大岩根。新井監督は「5年目で最高の打線。守り勝つのが野球だが、打たなきゃ面白くないしね」と笑顔を見せる。Bシードを力でねじ伏せた強力打線の勢いは簡単に止まりそうにない。

◇坂戸西、信頼を胸に気迫の投球

 投げても投げてもはじき返された。坂戸西の大黒柱、左腕長島が打ち込まれた。六回途中で被安打16、9失点。野中監督は「大会直前に左後背筋を痛めた。四回まで持ってくれと信頼厚い大黒柱に託したんですが」と明かす。秋、春連続4強のBシードはエースの降板とともに姿を消した。

 「悔しい。市川越の打線がすごかった」。試合後も一切痛みを理由にしない長島。しかし試合前の投球練習は10球ほど。通常20〜30球投げ込むのに比べ、明らかに本来の姿ではなかった。

 万全ではない左腕に相手打線は初回から容赦なく襲い掛かってきた。一回、振り逃げ出塁の先頭打者をけん制で冷静に仕留めたが、2死から4連打を浴び1点を献上。二回も2死から二塁打3本を含む5連打で一挙4点を奪われた。

 「外角にしっかり投げ込んだ。調子は悪くなかった」。抜群の制球力でチームを躍進させた左腕。16安打を浴びつつも四球は0。気迫の投球だった。

 市川越は昨夏の新人戦で延長の末、長島が死球を与え、0−1で惜敗した相手。捕手の安斎主将は「振りが鋭く、どこに投げても打たれる気がした。長島の球威は本調子と違うけど、ミット目掛けて我慢強く投げてくれた」と、1球1球に気持ちを感じ取っていた。

 「大事な試合を任せてくれた。うれしかった」と長島。六回にも3失点し、苦しさばかりのはずが、「最後まで投げたかった」。仲間の信頼を背に上がったマウンド。背番号1の気持ちは最後まで一歩も引かなかった。

本庄一、泥臭く粘っこく前進

 接戦になればなるほど強い。ここまでの4試合を競り勝ってきた本庄一が、見応えのある打撃戦を制した。

 互いによく知る北部勢同士の対戦を前に須長監督は「どちらが根負けしないかだぞ」とナインを送り出した。

 五回裏1死、先発のエース斉藤が同点三塁打を浴びた直後に“須長マジック”がさく裂した。2番手でマウンドに送り込んだのは、4回戦で先発した本格派の田村和ではなく、2年生の設楽。今大会初登板にも、左腕は「試合前に監督から2番手でいくぞと言われていたから」と準備万端だった。

 内野ゴロで勝ち越されはしたものの、タイミングを外すスローカーブを効果的に使い最少失点でしのいだ。須長監督は「あそこは勝負だった。よく粘ってくれた」。年に何回も練習試合をやり、手の内を知っている相手だからこそ、「裏をかいた作戦」と指揮官はニンマリだ。

 流れは本庄一に傾いた。六回裏、1死から中沢の右前打と敵失で一、三塁の好機をつくると、打席には3、4回戦無安打の烏山。「思い切り振った」と、内に入ってきたスライダーをたたくと打球は右翼線を襲い、逆転二塁打。この間わずか6球。鮮やかな逆転劇だった。勢いに乗った七回にも3点を追加して試合を決定付けた。

 春は地区大会1回戦で敗れたが成長を重ね、昨秋と同じ8強まで勝ち上がってきた。試合後、須長監督は「ここからもう1試合できることを喜びに感じてほしい」とナインに語り掛けた。主将の葉梨は「泥臭く、粘っこく、自分たちの得意な接戦に持ち込みたい」。普段着野球で一戦必勝を誓った。

正智深谷、最後まで意地貫く

 点の取り合いとなったシーソーゲーム。五回に一度は逆転したが六回に再逆転されあと一歩及ばなかった。

 田中監督は「どっちが勝ってもおかしくない試合。目指していた8強の壁を越えられるだけの練習をし、その力もあったので非常に残念。選手はよくやった」と試合を振り返った。

 まだ逆転可能な3点差で九回に突入。これ以上1点も与えないという意気込みが守備に表れた。先頭打者が三塁線上に流し打ったライナーを今井が横っ飛びでキャッチ。今井は三塁ベンチ前に上がった難しい邪飛も「何が何でも捕ってやろう」と走り込んで捕球し、最後の攻撃につなげた。

 しかし、裏の反撃は三者凡退で試合終了。それでも最後まであきらめない粘りの“正智野球”を印象付けた場面だった。

 秋、春ともにベスト16。この夏も壁を越えられなかった。先発飯島を継投した新田は、「みんなに支えられプライドを持って投げることができた。でも、飯島にもう1試合投げさせてやりたかった」と、涙で震える飯島の肩をつかんだ。

 主将の吉田は「みんなで一つのことに向かって頑張ればこんなにすごいことができると分かった。みんなでっかい男になれると思う」と、最後に晴れ晴れとした笑顔を見せた。

浦和学院、地力発揮の横綱相撲

 春の関東大会を連覇した優勝候補の横綱相撲だった。投打ががっちりとかみ合ったAシード浦和学院が、勢いに乗るノーシード鷲宮に快勝。森監督は「攻撃は先制、中押し、ダメ押しで点が取れたのがよかった。(完投した)阿部もよく投げてくれましたね」と穏やかな表情で振り返る。

 まずは、守備で流れを引き寄せた。一回、先発した右腕は2死から鷲宮の3番谷沢に中越二塁打され、4番丸山も死球で出したが、続く鴨田を内角直球で見逃し三振。二回には3者連続三振を奪った。「1本打たれたけれど、うまく気持ちを切り替えられた」と阿部。テンポのいい投球で、リズムをつくった。

 打線は直後の二回裏、2点を先制して力投するエースを助けた。死球の走者を犠打で送ると、1死二塁で「直球だけしか狙っていなかった」と言う7番海野が左翼フェンス直撃の先制適時打。さらに一、三塁から9番小林がスクイズを鮮やかに決めた。小林は「小技も絡めて2点目を取れたのが大きい」と喜ぶ。

 五回にも2点をプレゼントされた阿部は七回のピンチで踏ん張り、打線の援護に応えた。2点を返されたものの、2死一塁で一回に痛打された谷沢を見逃し三振。背番号1は「ツーシームを打たれたので、内角を攻めた」と切れ味抜群の直球をズバッと投げ込んだ。

 これで昨夏、聖望学園に敗れた5回戦を突破。2年ぶりの甲子園へ、本命が存在感を増してきた。

鷲宮、涙と感謝の夏

 渡辺の飛球が左翼手のグラブに収まると、鷲宮の長いようで短い夏が終わった。主将の丸山は「出られただけで感謝している。支えてくれたすべての人にありがとうと言いたい」と頭を下げる。

 敗れたとはいえ、優勝候補の浦和学院に真っ向から挑戦した。柿原監督は「相手はやっぱり強かった。ここ一番で投打に粘りがあり、一人一人の力の差を感じた」と素直に脱帽する。

 試合前日の練習で調子が良かった2年生の増渕を先発に立てた。「自分が絶対に抑えてやる」と強力打線に立ち向かったが、六回途中4失点で降板。打線は相手エース阿部に13三振を喫するなど2点に抑え込まれた。2点を追う七回の好機に見逃し三振に倒れた今大会3本塁打の主砲谷沢は「内角に手が出なかった。相手が上だった」と認めた。

 「ここまであっという間だった」と丸山は振り返る。4月に不祥事が発覚し、練習を自粛。日本学生野球協会に2カ月の対外試合禁止処分を言い渡された。5月9日に練習を再開したが、6月19日まで実戦から遠ざかり、夏に向けた追い込みができなかった。

 それでも、柿原監督は「配慮で出場させてもらった。勝っても負けても思い切ってやろう」と選手たちに言い続けた。それぞれが課題を持って自主練習に取り組み、試合解禁後は野球ができる喜びをかみしめた。丸山は「苦しいことも含めて野球の一つ一つが楽しかった。鷲宮でやれたことは一生の思い出です」と涙をぬぐった。

◇6年ぶりの8強入りに貢献 所沢北3年・戸谷亮太投手

 肩をぐるぐると回し、マウンドでぴょんぴょんはねる。これが気持ちを落ち着かせる準備。左腕エース戸谷が6回1失点、打っては公式戦初本塁打を含む2安打3打点と文句なしの活躍を見せた。

 「一球に悔いを残したくない」。その思いは誰よりも強い。今春の県大会を故障から欠場したことで生まれた。女房役の伊藤は、「相当悔しかったはず」とベンチに座ることすらできないエースの姿を証言する。

 エースなのにマウンドに立てない。戦う仲間を見ながら戸谷は、「野球生活がスタンドで終わるのか、ベンチか、マウンドか」と自分に問い掛けた。結論は「スタンドでもベンチでも悔しい」。故障が癒えると練習試合でも、一つ一つを最後だと思って戦った。

 余計なことを考えず全力投球。試合に集中することで荒れ球が減って制球力が上がった。中野監督からも、「これまではムラがあって安心できなかったけど今は違う」と信頼を勝ち得た。

 逆転サヨナラ勝ちした4回戦の飯能南戦は、グラウンドに突っ伏して泣いた。九回2死まで追い込まれ、「これで野球が終わりかと思った」。だからこそこの日は本塁打を放った後はライバルに一礼し、コールド勝ちしても、ガッツポーズはしなかった。「自分が目の前でやられたら嫌だ。最低限のマナー」。

 悔しさを知る度に成長する。伊藤は、「普段は明るくておちゃらけている。でも、頼もしい。エースらしいエース」とべた褒め。本人は「最後は笑って終わりたい」と左腕に力を込めた。

 身長176センチ、体重68キロ。入間藤沢中出身。

◇所沢商、“決戦”で堅守崩壊

 堅守巧打を誇った青い軍団が、どこかちぐはぐだった。

 マウンドでチームを鼓舞し続けてきた主戦菊地が四回途中でノックアウトされ、毎回失点でよもやのコールド負け。8強をかけた“所沢決戦”を落とした。

 菊地は一回、先頭の橋本を死球で出すと、越智の左中間を破る適時二塁打と失策で2点を献上。四回2死満塁で見喜に走者一掃の三塁打を浴び降板した。7失点だった。

 試合後、チームカラーと同じ真っ青のタオルを頭からかぶり、うなだれていた菊地は「いきなりの死球でリズムを崩した。最後はいっぱいいっぱいだった」と落胆した。

 4回戦を劇的な逆転サヨナラ勝利でものにし、血気盛んな所沢北の「勢い」を警戒していた。それだけに福地監督も「あの死球は痛かった。(所沢北の)波に乗っている強力打線につかまった」と表情は渋かった。

 4回戦まで無失策の堅守もほころびを見せた。一回1死二塁で中前打を許した後の中継プレーで、本塁を狙う走者に三塁手関谷が一度はタッチしたものの球をはじかれ、生還を許した。五回2死満塁では、捕球したかに見えた左翼への飛球を佐藤が落球した。

 散発4安打、8三振に封じられた戸谷攻略を語る前での敗戦。大場主将は「リズムが狂い、焦ってしまった。所沢勢同士の負けられない試合だったのに…」と、立ち去る足取りも重かった。

埼玉新聞