強い心でヘッドスライディング 春日部東・大橋貴博選手

 本庄一が連続長短打などで得点を重ね、春日部東を振り切った。本庄一は3回2死二、三塁から田村和の二塁打と葉梨の右前打で3点を先取。5回、2四球と相手守備のミスにつけこみ、2点を加えた。

 春日部東は5回、単打や四球で出塁した走者を犠打で送り、2本の適時打で2点、6回にも1点を加えたが、制球のいい投手に後続を断たれた。

 「強気」。帽子の裏に書いていた。その文字のように思い切って、三塁へヘッドスライディングした。

 6回裏。先頭打者として左へ流した打球は左翼線に落ちた。左翼手がもたつく間に二塁からもう一つ先を狙い、土煙を上げた。判定はセーフ。春日部東の大橋貴博(3年)は大きな口を開けて雄たけびを上げた。

 その姿に、中野春樹監督は目を細めた。「相手に負けない気持ちはチームの中で一番。次につなげるという意識も出てきて、精神的に成長した」と。

 小学生の時、九つ上の兄が春日部東の4番打者として活躍、準優勝した。兄と同じユニホームを着たいと春日部東へ。チームの合言葉は「私立を倒して甲子園に行く」だった。

 今春の県大会。初戦で0―5で浦和学院に負けた。満塁の好機で打てず、三塁の守備でも失策した。「お前のミスで負けた」。成長を促そうとした中野監督からきつい言葉をもらった。

 守備から鍛え直そうと、毎日300球〜400球、自主練習でノックを受けて、夏にかけた。

 この日は6回表に二塁の守備で失策したが、直後に見せたのが、ヘッドスライディングだった。

 「まじめに努力すればするほど、成長も大きいことを教えてくれた」

 3年間、練習に励んできた野球を、大橋はそう振り返った。

◇川越工 反撃届かず、後輩に夢託す

 4点を追う9回裏無死一、三塁。川越工の主将、実松大和(3年)に、「一本出せ」とベンチから声が飛ぶ。

 同じ川越市内のチーム同士。対戦経験から、実松は、相手主戦の大岩根匠(2年)を「変化球とコントロールのいい投手」と分析していた。この日も8回まで、低めのスライダーに苦戦。しかし、外角に甘く入った直球をフルスイングして中前に運び、反撃の1点目をたたき出した。

 一塁上でガッツポーズも笑顔も見せなかった。「まだ喜ぶには早すぎる」。3点目のホームを踏んでベンチに戻った時も、主将として気を引き締めた。

 2年の夏、引退した先輩から「お前がチームを引っ張れ」と主将に指名された。チームをまとめるのに苦労したが、冬場、4キロの重りが入ったベストを着る厳しい練習も周りを鼓舞して乗り切った。

 市立川越戦が終わった後のベンチ裏。泣きながら後輩の肩を抱いて言った。

 「来年はおまえらが引っ張れ。頼んだぞ」

◇殊勲の二塁打「最高の気分」 所沢北

 9回裏2死一、二塁、所沢北の3番越智諒(3年)が振り抜いた打球は、中堅手の頭を越えた。逆転サヨナラの二塁打となり、駆け寄った選手にもみくちゃにされた。

 越智は5回2死二塁、7回2死二、三塁の場面で、いずれも三ゴロの凡退。7回は中野忠司監督に「最後の打席になるかもしれないぞ」と言われ、力が入りすぎたという。

 9回は、1、2番が内野安打と四球でつないだ好機。「長打よりまず同点に」と打席に入り、初球を狙った。

 「人生最高の気分です」と興奮さめやらない様子で、殊勲の一打を振り返った。

 伊藤大輝主将(3年)は「全員で勝ち取った勝利。逆転勝ちできたのは大きい」と話した。

◇「全員で一体感、試合楽しめた」 川口

 「胸はっていこう」。試合後、川口の先発、梅山竜一(3年)がチームメートを鼓舞するように言った。5年ぶりの4回戦進出。32年ぶりの16強入りは逃したが、「全員で一体感をもって楽しめた」と振り返った。

 3回戦が終わり、選手たちは正智深谷の戦いぶりをビデオで見て研究。相手の主戦は走者が出ると甘い球がくると見ていた。いきなり試す時がきた。1回表、1死三塁の好機で、3番の橋本和馬(2年)が直球を振り抜くと、左前にゴロで抜け、先取点に結びついた。

 後半に点差が開く展開になったが、主将の安田浩司(3年)も「試合に出ているやつも、ベンチもスタンドも全力でやった結果。でなければ、あの1点もとれていない。悔いはない」と晴れやかだった。

◇主戦に助言「頼もしい」副主将 城北埼玉

 5回裏1死一、二塁。城北埼玉の遊撃手、三枝紘也(3年)は、マウンドの村上啓(同)のもとへ歩み寄り、声を掛けた。

 「しっかり間を取って、打たせて取ろう」

 4回裏に2死球から2点を失い、この回も二つの四球。投げ急ぐ主戦に一息入れさせた。「力になった」という村上は打者を三塁へのライナーに仕留めた。二塁走者も飛び出し、併殺が取れた。

 9番打者で、この日は3打数3三振。だが、間合いを取った場面を、藤野博行監督は「あれもヒットに値する。流れを変えられる男だ」と、副主将としての適切な判断を評価した。明るい性格で、普段から率先して声を出す。監督にとっても「頼もしい」存在だ。

 昨年の夏は二塁手として出場したが、初戦で敗退。今年は4回戦まで勝ち上がってきた。「今年こそと思っていた。いい球場で、いい相手と試合ができてよかった」と三枝。優勝候補が相手の試合を充実感にひたりながら振り返った。

朝日新聞埼玉版)