壁を越えろ あと一歩の甲子園<4>川越東高校

◇意識改革で打倒徳栄

 「何だ、そのプレーは」。川越東のグラウンドに就任5年目の阿井英二郎監督の大きな声が響く。練習中に気のないプレーをした選手への叱責(しっせき)は厳しい。だが、その厳しさこそ阿井監督の野球に対する姿勢そのものだ。

 今年のチームは部の歴史を次々と塗り替えた。昨秋の県大会で初の4強に入ると、今春も初の県ベスト4。高梨、猪岡の左腕二枚看板を軸に粘り強く接戦を制してきた。

 だが、秋、春ともに準決勝で花咲徳栄にコールド負け。昨夏の4回戦でのコールド負けを含めると、三大会連続で花咲徳栄に上位進出を阻まれ続けている。川越東にとってはまさに大きな壁だ。

 この敗れた3試合に登板した高梨は「前までは意識しすぎていたが、今は意識して勝てるようにしたい」と、逃げずに立ち向かうと決めている。互いに勝ち進めば、準決勝で4度目の対戦。阿井監督も「当たって満足するのではなく、本気で勝とうと思わなければ」と選手の気持ちを量る。

 阿井監督は1982年、東農大二(群馬)のエースとして甲子園に出場。卒業後はプロ入りし、ヤクルト、ロッテで主に中継ぎで活躍した。92年に引退し、サラリーマンをしながら教員免許を取得。つくば秀英(茨城)を経て、2005年に川越東に赴任。同年秋から野球部監督に就いた。

 当時のチームの印象は「伸び伸びして良い雰囲気だが、ストレスに弱く、苦しい思いをしたことがない子が多い」。まず取り組んだのは部員の意識改革だった。グラウンドに落ちたままになっていた球を拾い、草むしりや掃除を徹底。学校生活や身だしなみを見直した。

 “バック・トゥ・ベーシック”。基本を大切にする阿井監督はそれが野球につながると考えている。「やればできるのではなく、やらないからできない。弱い自分を見つめる努力が大事。技は心なりということ」

 以前から部を見てきた外山勝也部長も「全然違う。前は野球をやっていればいいという感じだった」と選手の変化を感じ取った。今チームの主力の猪岡も「阿井先生は私生活のことも言ってくれる。付いていけば自分を高められる」と感謝。阿井監督が手塩にかけたチームの最大の挑戦が始まろうとしている。

埼玉新聞