壁を越えろ あと一歩の甲子園<3>春日部東高校

◇勝負知る知将に託す

 野球に対する造詣が深く、いつも冷静沈着で理論派の指導者。そんな埼玉の公立校きっての知将・中野春樹監督が率いるのが春日部東だ。北海道出身の同監督は1979年に開校したばかりの越谷西で野球部監督に就くと、95年に甲子園初出場。98年に春日部東に転任し、2001年にチームを準優勝に導いた。

 「最後まで勝てるのは精神的にタフなチーム。5回戦からまだ3試合ある。そこでどっしり野球ができるか。ベスト8から戦えるチームをつくらないと甲子園はない」。決勝で歓喜と涙を味わった指揮官の見解だ。

 興味深いのはともに決勝のスコアは1−0。越谷西のときは主砲が詰まりながら決勝打を放って大宮東に勝利。春日部東のときは犠飛で1点を奪われ、花咲徳栄に敗れた。「ベスト8になると、力以上の目に見えないものが絡む。単純な力の差では決まらない」。勝負を分けるわずかな差を身をもって知る。

 春日部東は昨年も4強に入った。大会前はチームの中心になれる選手がおらず、「初戦負けでもおかしくなかった」(中野監督)そうだが、朝霞、花咲徳栄、市川越など実力校に競り勝った。

 今チームになり、主力の多くは抜けたが、残ったメンバーもいる。左翼手で出場していた大橋は準優勝時に4番を務めた兄・一博さんの後を追って春日部東に進学。「甲子園に行けば絶対に人生が変わるよ」という兄の言葉が印象に残っている。大橋も「去年の経験を生かしてチームを引っ張りたい」と兄が届かなかった夢を追っている。

 昨夏1試合に登板し、今大会はエースナンバーを背負う菊池は「去年はミスで負けた。自分たちの野球ができればどんな強豪にも負けることはない」と自信を持つ。地元出身で主将の藤田も「自分が中学3年のとき、春日部東がノーシードからベスト8に行き、甲子園の可能性があると思った」と最後の夏に懸ける思いだ。

 長丁場の戦いでは勢いや運も大切だが、実績や伝統がここぞでものを言う。「過去の結果を見て入学した選手もいるし、勝つ下地はできていると思う。地道に練習していれば、何回かに一回は勝ち上がれる。あきらめてはいけない」。中野監督の目がきらりと光った。

埼玉新聞