亡き父と約束のヒット−−寺井聖明選手(3年)

 二回裏無死一、二塁で回ってきた甲子園初打席。送りバントは、相手投手が足を滑らせて幸運な内野安打となり、先制点の好機を作った。しぶい形ながら、父との約束のヒットを打てた。

 「お父さんの見る僕の最初の試合は、甲子園であってほしい」。入学後、試合を見に行こうかと持ちかける父に、そう言って断ってきた。しかし、この日、スタンドに父の姿はなかった。

 父が63歳で自宅で倒れ急逝したのは昨年4月。肺がんだった。練習試合の直後、グラウンド脇でコーチから知らされた。「うそだろ? ドッキリだろ?」。その場で泣き崩れた。

 その日使ったバッティング用の手袋は2日前に届いた新品だった。「すぐにボロボロになるから」と、父が毎月、野球部寮に送ってくれていた。「お陰で試合では絶好調だったのに……」。最後に送ってくれた手袋が形見になった。

 この手袋は寮の自室で父の遺影の前に置き、公式戦でしか使わない。大事に使ってきたが、右人さし指の付け根部分に直径5センチほどの穴が開いてしまっている。

 晴れ舞台の甲子園。全打席で形見の手袋を着けて臨んだが、その後の3打席は抑えられた。試合後、心の中で父にこう語りかけた。「次も見てろよ。必ず打つから」

毎日新聞埼玉版)