第82回センバツ高校野球:花咲徳栄、花開く 7年ぶり2回目

◇「優勝するぞ」ナイン歓喜、胴上げ

 第82回選抜高校野球大会の出場決定の知らせが、花咲徳栄高校(加須市)に届いた。センバツは7年ぶり2回目、夏は01年に出場している。埼玉からのセンバツ出場は準優勝した08年の聖望学園以来、2年ぶり。ナインは全国制覇の夢を咲かせようと、大舞台での活躍を誓った。大会は3月13日の組み合わせ抽選会を経て、同21日に兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開幕する。

 午後3時半、根建亮太主将(2年)ら部員たちは校舎の玄関前に集合した。待つこと10分。学園の佐藤孝司理事長が校舎から出てきて、「おめでとうございます」と口にした。

 「甲子園に行けるんだ」。根建主将はほっとして肩の力が抜けたように感じた。「優勝するぞ」。主将のかけ声で、部員全員が帽子を放り投げて喜んだ。

 記念撮影のためグラウンドに向かう途中、主将に指名された半年前を思い出した。岩井隆監督から「お前はレギュラーではないが、人に意見を言えて人望もある」と見込まれた。「試合に出ていないのに、仲間のプレーを注意するなんて無理だ」と悩んだが、監督から「おれも高校で主将だった。嫌われても言わなきゃいけないことがある」と諭され、覚悟を決めた。

 グラウンドで部員たちと監督を胴上げした。続いて自分も胴上げされた。

 副主将の佐藤卓也選手(2年)は、根建主将とチームがどうすればまとまるか野球部の寮で夕食を食べながらよく話し合ってきた。「出場決定を聞いて、根建は泣き出しそうだった。一番監督にしかられつらい思いをしてきたから、本当にうれしかったんだと思う」と話す。

 胴上げに加わった林謙造選手(2年)も苦しんでいた主将の姿を思い出した。1年の冬から同じ寮の部屋で過ごす。「主将を辞めたいとの弱音も聞いた。あいつはよく頑張った」。エースの五明大輔投手(2年)は「根建には自主練習の量を増やせとか、厳しいことを言われた。でも今は感謝している。甲子園で活躍して期待に応えたい」。

 午後5時、根建主将は制服に着替え、岩井監督や佐藤理事長と記者会見に臨んだ。「感謝の気持ちを忘れず頑張りたい」と堂々と抱負を語った。

 「うまくしゃべれたな」。会見を見ていたチームメートから肩をたたかれた。「実はフラッシュの数に驚いて頭が真っ白でした。県大会も、関東大会も準優勝だった。甲子園では頂点を目指します」。笑顔で語った。

◇地元業者が祝福、こいのぼり贈呈

 お祝いに地元業者から加須の特産品、こいのぼりと吹き流しが届いた。「祝選抜出場」「目指せ日本一」と書かれている。プレゼントした橋本弥喜智商店3代目の橋本隆さん(69)は「(滝を上るコイのように)勝ち上がって優勝することを願って作りました」と話す。マネジャーの井上陽平君(2年)は吹き流しを手に「甲子園のスタンドにはためかせたい」と喜んでいた。

◇スポーツ名門校

 花咲徳栄高校は、82年に学校法人佐藤栄(さとえ)学園によって設立された男女共学の私立校。埼玉栄など3校の系列高がある。生徒数は1917人(男子1122人、女子795人)。普通科と食物科がある。建学の精神「人間是宝」と校訓「今日学べ」のもと、道徳を重視した人間性を高める教育を行っている。

 野球部は学校設立と共に創部。01年夏に甲子園に初出場し、当時の主将だった根元俊一選手は千葉ロッテマリーンズ内野手として活躍する。

 2度目の甲子園は03年のセンバツ。準々決勝で東洋大姫路(兵庫)と対戦し、延長十五回で2−2と決着がつかず、引き分け再試合に。

 翌日の再試合は延長十回に5−6でサヨナラ負けした。当時のエース、福本真史(まさふみ)投手は社会人野球を経て今年1月から母校に戻り、コーチを務める。

 多数の高校チャンピオンを輩出しているボクシングをはじめ、空手道、レスリングが全国レベルで活躍。卒業生には、WBAスーパーフェザー級王者になったばかりのプロボクサー、内山高志選手や、プロゴルファーの山口裕子選手、Jリーグ川崎フロンターレ黒津勝選手がいる。

◇待ち望んだ号外、学校周辺で配布

 センバツ出場を伝える本紙の号外が29日夕、学校周辺などで計1万部配られた。吉報を待ち望んでいた部員の保護者や学校関係者らが先を争って手にしていた。木村駿斗選手の母由美さん(43)は「甲子園は息子の夢だった。出場が決まり、グッと来るものがある。花咲徳栄の特徴である粘り強い野球をやってきてほしい」と話しながら、「花咲徳栄 センバツ出場」の大見出しが踊る号外に見入っていた。大勢の市民に応援してもらおうと、毎日新聞社は商店などに張るポスター200枚も用意した。「出場おめでとう! 花咲徳栄高 目指せ優勝!阪神甲子園球場」と書かれており、今後市内の商店などに配布する。

◇垂れ幕で祝福

 センバツ出場を祝う垂れ幕(幅1・5メートル、長さ7メートル)が29日、学校正面玄関にお目見えし、祝福ムードを盛り上げた。毎日新聞社が出場を祝して贈った。教師が屋上から垂れ幕を下ろすと、集まった部員の保護者らが記念にカメラに収めていた。

毎日新聞埼玉版)