勝敗分けた美技 佐藤、笑顔絶やさず粘投 聖望学園

 勝利が決まると次から次へと選手は佐藤に抱き付いた。まるで今季を象徴するかのようなシーン。1本の柱を何本もの柱で支える「全員野球」。選抜大会準優勝の称号を持ちながら、2年連続初戦敗退した昨夏。ついに、聖望学園復活の夏を迎えた。

 持っているすべての戦力を凝縮した戦いぶりだった。走塁、盗塁、犠打に堅守。機動力で揺さぶって、埼玉栄の右腕島野に重圧をかけた。「島野君を投げさせると勝ちペースに持ち込まれてしまう」と岡本監督。二回に3点を奪って、思惑通り降板させた。守備はファインプレーを連発。ほぼ1人で投げ抜き、疲労の見えるエース佐藤をもり立てた。

 「スターはいない。誰も一人にするな。全員でやろう」。岡本監督のこの言葉から新チームはスタートを切った。昨季のエース大塚のような絶対的存在はおらず、主将の子安は「自分たちがどういうチームか分からなかった」という。

 暗中模索での船出の中、チームは基本に立ち返った。キャッチボールやゴロを取るなどの守備練習、厳しいノルマを課しての走り込み。さらに、機動力を磨くため、各塁ごとにリードを広く取って揺さぶりを掛ける練習を繰り返した。

 自信を持てたのは大会直前の6月の練習試合。他県の強豪を破ったのをきっかけにチームは変わった。連敗続きから連勝し始め、岡本監督も選手に今年は「狙える」と伝えた。「監督の言葉が力になった」と城戸。ベテラン監督の言葉でチームに自信が芽生えた。

 初戦の2回戦で昌平を破って汚名をすすぐと、チームの勢いは加速した。5回戦で浦和学院、準々決勝で本庄一と優勝候補を軒並み撃破。今大会一番の激戦ブロックを勝ち上がり、ついに6年ぶり3度目の栄冠をつかんだ。

 岡本監督は、「戦いながらたくましくなっていった」と選手を絶賛。子安は「勝てないと言われていたが、みんなが一つになれた」。そして、城戸は「チームカラーがやっとつかめた」。

 止まらない成長で昨春のような快進撃を見たい。

◇笑顔絶やさず粘投 聖望学園・佐藤

 最後の打球がマウンドの前で跳ね、右手のグラブに収まった。満面の笑みでガッツポーズをし、送球を待ちきれない一塁手・城戸に、左手でゆっくりとウイニングボールを送った。「夢がかなった」。飛び付いてきたナインにマウンドでもみくちゃにされた。

 4連投の疲れはあった。しかし「体が重かったが気持ちで投げた」と粘りの投球。加えてバックの再三の好守備に助けられた。最大のピンチは五回2死満塁。中前に落ちそうな打球を中堅手・本所がダイビングキャッチした。「打たれた瞬間はやばいと思ったけど、本所がよく捕ってくれた。みんなが助けてくれた」と仲間に感謝した。

 昨年、選抜大会で準優勝しながら、夏はまさかの初戦敗退。当時のエース大塚(現新日本石油)の後を受け登板したが「流れを変えられなかった」と満足な投球ができなかった。敗戦後、大塚から「甲子園に行けよ」と思いを託され、「自分も大黒柱にならないといけない」と決意した。

 大会中、大塚が応援に駆け付けた。勝ち進むチームに「正直、嫉妬してるよ」と冗談めかしく言われたが、最後に「頑張れ」と後押ししてくれた。左腕エースは、先輩の悔し涙も背負ってマウンドに立ち、雪辱した。

 選抜大会決勝以来の甲子園のマウンドに立つ。「あの時は頭が真っ白だったけど、今回は楽しんで投げたい」。大会中、絶やすことのなかった笑顔が、あこがれの大舞台でも輝く。

 176センチ、71キロ。飯能西中出身。

埼玉新聞

◇目配りの司令塔に選手の輪 聖望学園3年・子安史浩主将

 五回表、先頭打者のヒット性の強いゴロをダイビングキャッチ。この回、2死満塁のピンチを迎えるとすかさずマウンドに駆け寄り、佐藤勇吾投手(3年)に「投げられるのは、お前一人しかいない」と声をかけた。気持ちが楽になった佐藤投手は中飛に打ち取った。岡本幹成監督が「試合中、自分が言いたいことを全部選手たちに言ってくれる」というチームの司令塔は、この日も役割をきっちり果たした。

 昨春のセンバツで準優勝したものの、続く夏の県大会では初戦負けを喫した。直後の8月に主将に就任。天国と地獄を味わった直後のチームは「どうしてよいか分からず、みんなの心がバラバラだった」(子安主将)。

 主将として監督から「そんな気持ちじゃ勝てないぞ」としかられる日々。「ゼロからチームをスタートしたい」と、選手たちとキャッチボールやノックなど基礎練習に徹底して取り組んだ。冬を越えるころには守備の上達を実感できるように。練習試合の結果もよくなり、チームは自信を取り戻して今大会に臨むことができた。

 緊迫した場面になると意識的にギャグを言って、雰囲気を和ませ、広い目配りでチームをまとめてきた。優勝を決めてスタンドにあいさつすると、佐藤投手と抱き合って喜んだ。その周りに選手の輪ができていた。

毎日新聞埼玉版)

◇守りの職人面目 聖望学園3年 本所宏章外野手

 五回表二死満塁、力ないフライが二塁手後方の難しい場所に上がった。ポテンヒットになれば、試合の流れを一気に奪い返されてしまう場面。

 身を投げ出し、落ちる直前のボールを地面すれすれでグラブに収めると、「捕ったぞ」とばかりにグラブを突き上げた。スタンドの大歓声を浴びながらベンチに戻ると、岡本監督が「やっと役に立ったな」とニヤリ。思わず苦笑いした。

 50メートルを6秒1で駆ける俊足と好守を買われ、捕手から外野手にコンバートされたのは昨年秋。レギュラーとして守るのは今夏が初めてだ。課題の打撃は今大会1割に満たないが、「おれは守備の選手」と言い聞かせてきた。

 この日もバットは振るわなかったが、ビッグプレーでチームの危機を救った。「甲子園でも精いっぱいやるだけです」。土にまみれたユニホームが誇らしげだった。

(読売新聞埼玉版)