聖望学園V 埼玉栄下し6年ぶり3度目 高校野球埼玉大会

 第91回全国高校野球選手権埼玉大会は29日、県営大宮球場に1万8000人を集めて決勝が行われ、聖望学園埼玉栄を3―2で破り、6年ぶり3度目の優勝を飾った。昨年、選抜大会で準優勝しながら、夏は初戦敗退した悔しさを晴らした。埼玉栄は11年ぶりの甲子園出場を逃した。

 岡本監督が宙を舞う。選手たちも、応援団もみんな笑っていた。昨年の屈辱からはい上がった聖望学園が見せた、心からの笑顔だった。

 三回に奪った3点が試合の行方を決めた。先頭の4番城戸が四球で歩く。のどから手が出るほど欲しい先制点。準決勝までチーム打率2割5分8厘と、決して打撃力があるチームではないが、岡本監督の采配は「攻め」だった。

 続く西村は送りバントではなく強打で中前打。すかさず盗塁し無死二、三塁とすると、動揺した埼玉栄の先発島野がまさかのボーク。先制点を奪った。さらに小島のタイムリーで追加点を挙げ、併殺崩れの間に3点目。この回だけで3盗塁と相手バッテリーを揺さぶった。

 エース佐藤は4連続完投。さすがに中盤以降、疲労の色が出た。しかし、「佐藤、攻めろ」と仲間の声に支えられ力投。バックも攻めの守備でピンチにはファインプレーを連発し、逃げ切った。

 昨年は、選抜大会準優勝で守りの意識と欲が生まれた。昨夏の初戦敗退の際に、岡本監督はこれを「春の亡霊」と呼び、「それに取り付かれた」と敗因を語った。しかし、すべてを失い、ゼロから再出発したチームはこの夏、攻めの姿勢と無欲の全員野球を取り戻し、優勝をもぎ取った。

 島野―芹沢の継投で接戦を勝ち抜いてきた埼玉栄。この日は3点を先制されたが、七回に飯沼、八回には主砲・林のタイムリーで1点差にまで迫った。

 大島(現埼玉西武)を擁した第80回大会以来、11年ぶりの甲子園出場はならなかったものの、浦和学院をはじめ、ほかの上位4シードがベスト8前に姿を消した中で、Aシードの実力は示した。

◇甲子園でもらしさを 聖望学園

 「その瞬間」を待ちきれなかった。1点リードの九回表。聖望学園応援席から「甲子園行くぞ」と掛け声が飛ぶ。一つアウトを取るたびに、前のめりになる控え部員たち。中には感極まって目を真っ赤にする人の姿も。そして迎えた試合終了の瞬間。スタンド中から歓声がこだまし、生徒たちは跳び上がって喜びを爆発させた。

 ずば抜けた選手がおらず、秋、春と思うような結果を残せなかったチーム。だが、日を追うごとに結束力を強め、一丸となってここまでたどり着いた。ベンチに入れなかった3年生片木康揮君(17)も「気持ちは一緒に戦っている。彼らのためにも、最後まで応援したい」と声をからす。

 試合は序盤に3点を先制したが、後半は埼玉栄の反撃に遭い、苦しい展開。八回に1点差に追い上げられた場面では「強気で攻めろ」とマウンドの佐藤勇吾投手を励まし続けた。

 試合後、勝利に沸くスタンド。その中で、佐藤投手の母万里さん(45)は「仲間を信じてよく投げた」とあふれる涙をタオルでぬぐった。

 昨春の二塁手で、選抜大会の舞台を経験した高山拓海さん(18)は「自分たちが引退した時と別人がいるみたい」と選手の成長に驚く。そして、全国の舞台に挑む後輩たちにエールを送った。「甲子園でも聖望らしさを発揮すれば、結果はついてくる。自分たちの分も頑張ってきて」

◇残念だけど頑張った 埼玉栄

 三塁側スタンドは試合前から埼玉栄の応援団で埋め尽くされた。「2、3回戦はサヨナラ勝ちだったので応援にも力が入った。決勝は同じくらいの気持ちでやります」と、スタンドの野球部員を統率する藤原皐平君(18)は意気込んだ。

 昨年の主将を務めた東洋大学野球部の酒井亮君(19)は、チームメートだった兼古泰士君(18)と来た。「最初は大丈夫か? と思ったけれど、試合ごとに粘り強くなった」と分析した。

 試合は二回に3点を失い、六回まで無得点が続く。形勢は悪いが、最後列で巨大なオレンジ色の応援団旗を支える堀越諒君(18)は「まだまだこれから」と歯を食いしばる。

 そして七回、飯沼大輝三塁手が中前打して1点を返すと、スタンドは大騒ぎに。母親の千秋さん(49)は「これから反撃です」と力を込めた。八回にも林弘樹主将の右中間適時打で1点差に詰めた。

 けれども粘りもここまで。九回、最後の打者が投手ゴロに倒れると静まり返った。「攻撃が遅かった。でも楽しかった」と野球部父母会長の田島雄一さん(49)。林主将の父親の勢一さん(55)は「主将になって責任感が強くなった気がする。残念だけど、よく頑張った」とねぎらった。

埼玉新聞

◇聖望2回裏 先取点だ サンバだ「わっしょい」

 試合開始直後のスタンドは気温30度を超える暑さ。その中で、選手同様、応援団も精いっぱい決勝を戦った。

 1回表 埼玉栄の三塁側約500人の大応援団は、メガホンや法被をチームカラーであるオレンジ色に統一。中軸の2本の安打に、野球部OBの仁部敬太さん(18)は「上々の立ち上がり」。対する一塁側の聖望学園は約400人が青いメガホン。いきなりのピンチに「あぁ」とため息も漏れたが、右翼手の好返球で三塁を狙った走者を刺すと、「ナイスプレー」とメガホンが乱打された。

 2回裏 聖望学園の先取点で、全員が総立ちに。サンバのリズムに合わせてステップを踏み、「わっしょーい」。野球部の安斎良馬さん(2年)は最前列に飛び出しサンバを披露。「うれしくて、やっちゃいました」。

 あっという間に3点を奪われ、埼玉栄の女子生徒たちはメガホンを握りしめ、「なんで……」。チアの磯谷友伽さん(2年)は「元気出すよー!」とピースサインを突き出した。

 4回裏 聖望学園の7番河合賢人選手(3年)が二塁打を放つと、母幸子さん(46)は跳びはねた。中学時代にチームメートだったという岩手の一関学院の金森駿さん(17)は「河合を応援しに来た。一緒に甲子園で戦いたかったなぁ」。

 5回表 埼玉栄OBの本橋則明さん(27)が最前列で「気合入れていくぞー!」。応援団長の久保田雅也さん(2年)も負けじと、「いくぞぉ」。2死満塁で打球がセンター方向に飛ぶと、一斉に「いけーッ」の声。しかし、中堅手がスライディングキャッチすると、一瞬で悲鳴に。写真部の加藤沙織さん(3年)は「うーん……。でも、まだチャンスはある」と、スコアボードを見つめた。

埼玉栄7回表 1点返した「栄マーチ」だ旗を振れ

 7回表 埼玉栄オリジナルという「栄マーチ」にのせて、約30本のオレンジや青、白の旗が振られた直後に好機到来。1点を返す。本塁生還の塩田将和選手(3年)の母克代さん(51)は笑顔で「ドキドキします」。

 聖望学園野球部コーチの赤岩宏彦さん(26)は「相手も強豪。簡単には勝たせてもらえないかぁ」とポツリ。

 8回表 埼玉栄が4番・林弘樹選手(3年)の適時打で1点差に。父勢一さん(55)はメガホンを激しく打ち鳴らしながら、「うれしいです」と目を細めた。

 聖望学園のスタンドは、佐藤勇吾投手(3年)の一球一球に「踏ん張れー」。ダンス部の岸山美彩樹さん(3年)はチェンジと同時に「もう、甲子園は見えてます」と赤と白のポンポンを手にした。

 9回表 埼玉栄スタンドは相手投手のストライクで悲鳴、ボールで歓声。「かっ飛ばせぇ」の声とメガホンを打ち鳴らす音。しかし、最後の打者がピッチャーゴロに倒れると、「あぁ…」という声の後、静まりかえった。だが、間もなく「ありがとう!」と拍手が起きた。

 聖望学園スタンドは試合終了の瞬間、「わーっ」という大歓声とメガホンや大太鼓、手拍子が響いた。校歌の大合唱で、佐藤投手の母万里さん(45)は顔に手をあてて涙を流した。「これまでがまんしてきたものが、一気にあふれ出てきました」

朝日新聞埼玉版)