共栄、6年ぶり王手 本庄一、劇的再現ならず

◇先輩の助言生かし完投 春日部共栄

 逆転の本庄一打線を相手にエース竹崎が146球、6安打2失点で完投。直球を低めに集め、切れのあるスライダーを織り交ぜながら打たせて取る投球を披露。「自分の投球ができた」と満足そうだ。

 トレーナーを通じて、高校時代に本庄一と対戦経験のある2年先輩の中村勝(現日本ハム)から「相手は内角寄りに立つから、真ん中に投げればいい」とアドバイスをもらった。その通り各打者がホームベース寄りに立ってきたが、「真ん中に投げれば内角になる」と攻めの投球で抑えた。

 決勝で戦う花咲徳栄は春に敗れた相手。「食らいつく気持ちで挑戦したい」と優勝へ力を込めた。

◇勢い加速の一発 春日部共栄

 巡ってきたチャンスに背番号15の伏兵・須田が必死に期待に応えた。三回、失策で出塁した千葉を一塁に、本庄一の設楽が投じたインコース低めの直球をたたき、左翼席に運んだ。

 放物線を思い返すように本多監督は「あのホームランが大きかったよ」とうなり、「練習でも見たことのない当たり。ベンチも驚いた」と上機嫌だった。

 三塁を守るが、今大会の春日部共栄三塁手を固定していない。久喜工戦(4回戦)以来のスタメンに「球速で押してこない設楽投手は須田向き」(本多監督)との起用策が的中した。

 2年の春、打撃が振るわず一時、バットを振ることさえ「怖かった」という。練習後に1時間ほど素振りを課し、打撃練習ではチームメートより数多く打ち込んだ。

 「打席での不安感はバットを振ることで乗り越えた」と須田。「ホームランは気持ちいいです」と格別な思いがこみ上げる。不調が1球目から振る勇気を教えてくれて、この日も初球を振り抜いた。

 ベンチで祝福された須田。本多監督の「びっくりさせるなよ」の言葉に、思わず「すいません」。ムードメーカーの一振りがチームを勢いづけた。

◇貫いた「常笑野球」 本庄一

 6度目の奇跡はならなかった。終盤の逆転劇で大会を勝ち進んできた本庄一がミスから自滅。勝負強さを発揮し切れず姿を消した。

 一回、バックの足元が揺らいだ。2死二、三塁で「前に出るかどうか迷ってしまった」と粶が三ゴロを後逸し、タイムリーエラー。三回には遊撃手伊藤の失策直後に、先発の設楽が本塁打を浴びた。「三遊間は1、2年生。若さが出た」と須長監督。ここまでの5試合でわずか3失策の守備が混乱。リズムが狂った。

 春日部共栄の好投手竹崎を相手に五回を追えて0−4。「逆転の本一」を率いる指揮官もさすがに「きついな」と感じた。グラウンドの整備の時間を利用して「どれだけ笑えるか」と選手に働き掛けた。「常笑野球」を忘れるなと。

 六回、田村の敵失での出塁をきっかけに、岡野、坂本の連続適時打で続いた。「(リードする)自分の責任だった」と被本塁打について話した主将の岡野が意地の一本を放った。この攻撃で「今日もか」と、終盤への期待感を抱かせた。

 2年連続の甲子園への道のりは険しいものだった。昨秋の県大会では初戦の2回戦で完封負け。春は地区予選で敗退。今夏は1、2年生10人がベンチ入りと若い勢力が台頭した。その分3年生は苦い思いをしてきた。

 しかし、試合後の須長監督は「3年生がいなければここまでこれなかった」と言い切った。初戦敗退も十分あった中から準々決勝までの5試合中4試合で逆転勝ち。高校野球の醍醐味を存分に披露した。試合後のナインは笑顔。力を出し切った「常笑野球」だった。

◇エースの設楽 後輩投手に感謝 本庄一

 大事な試合の先発を任されたエース設楽。「三回まで投げればいい」という須長監督の指示通りに投げ切ったが、4失点は誤算。左腕は「先発の役目を果たせなかった」と落胆した。

 初戦の越谷西戦では途中降板。それでも準々決勝の浦和実戦では8回2失点と好投した。「何もできないエースだったけど、萩原と高沢に助けてもらった」と後輩の投手に感謝した。昨夏の甲子園でマウンドに立てたのは一生の思い出。連覇を逃し、「もう一度立ちたかった」と名残惜しんだ。

埼玉新聞