上尾、競り合い制す 熊谷商、土壇場で古豪の誇り

 (16日・県営大宮ほか)

 第6日は7球場で3回戦16試合が行われ、サヨナラ勝ちが4試合あり、そのうち3試合が延長の熱戦となった。

 Dシード所沢北は滑川総合に延長十一回、3―2でサヨナラ勝ち。聖望学園は所沢中央を延長十二回の末、4―3のサヨナラで破った。朝霞は栄東に6―5で逆転サヨナラ勝利。Dシード川口は昌平を4―3のサヨナラで下した。

 Aシード上尾は熊谷商の追い上げを振り切り、3―2で競り勝った。同じくAシード花咲徳栄は所沢に大勝した。

 第7日は6球場で3回戦の残り16試合が行われ、4回戦に進出する32校が決まる。

◇土壇場で古豪の誇り 熊谷商

 3点をリードされ追い込まれた土壇場で、古豪のDNAが目覚めた。28年ぶりに実現した「伝統の一戦」。熊谷商は上尾に2−3で惜敗したが、九回裏に2点を返し意地を見せた。

 大差になってもおかしくない試合だった。上尾は春の準優勝校。熊谷商は昨秋も今春も地区予選敗退。エース川崎は上尾打線に14安打を浴びる。しかし再三のピンチを全力で守った。九回まで3失点は本当によく守った。

 この守りが九回の反撃を生む。8回まで上尾の左腕三宅に3安打に抑えられていた打線がつながった。1死から松田が二塁打を放つと、代打相原が安打で続く。1死一、三塁。森田の遊ゴロの間に1点を返すと、代打宮下のタイムリーで1点差。三宅をマウンドから降ろした。最後は茂木が三ゴロに倒れたが、ナインは充実した表情を見せた。

 最後に見せた「熊商の誇り」。OBで甲子園経験のある江原監督は「選手には何も言わなかったが、やはり『伝統』の重みが伝わったのだろう」と奮闘をたたえる。

 熊谷商はレギュラーの半数以上が2年生という若いチーム。主将の金子は「全部やり切った。悔しいなんて思いはない。後は2年生に託したい」。2年生エース川崎は「来年は優勝を目指す」と古豪の復活を感じさせるように力強く語った。

◇堅実野球で初戦突破 所沢北

 「いやあ苦しかった」。Dシード所沢北の中野監督の口から思わず本音がこぼれた。延長戦で滑川総合に一度は勝ち越されながら追い付き、十一回サヨナラ勝ち。苦しみの末、初戦を突破した。

 2回戦が越谷東の出場辞退で不戦勝となった。大会前の最後の練習試合から2週間。すでに2試合を戦っている滑川総合との実戦感覚の差は少なからずあった。一回に敵失で先制したが、五回に先発羽田が暴投で同点を許し、そのまま延長戦に突入。十回に2番手の原が勝ち越し点を献上した。

 だが、堅実な野球ができるのが所沢北の強み。十回に先頭の小林が二塁打を放ち、1死三塁から中沢のスクイズで同点。十一回には山崎の三塁打を足掛かりに1死満塁とし、内田の二ゴロが敵失を誘い、決勝点となった。中沢は「少ない点差で勝つためにバントは重要」。1年生の内田も「ゴロしか頭になかった」と作戦が浸透している。

 お互いに失策や暴投などミスも出たが、滑川総合の積極的な攻撃や走塁が裏目に出たのに対し、最後は確実性のある所沢北に軍配が上がった。

◇勝利への執念途切れず 朝霞

 筋書きのないドラマのような劇的な幕切れだった。

 十回裏無死三塁の絶好のサヨナラのチャンスを逸した朝霞。十一回表に栄東に2点を奪われてゲームの流れが相手に傾き、そのまま力尽きるかと思われた。

 しかし朝霞ナインの勝利への執念は最後まで途切れなかった。「コンパクトに振ることを心掛けた」という先頭打者中山が内野安打と暴投で二塁へ。続く本橋が中前安打を放ち一、三塁。さらに1年関谷が一塁線を破る三塁打で一気に同点に追い付いた。

 この後のアクシデントは勝利の女神のいたずらか。栄東の久保山がまさかのボーク。朝霞のサヨナラ勝ちが決まった。

 敗色濃厚から、しぶとく勝利をもぎ取った。「ベンチの雰囲気が良かったので絶対勝てると信じていた」と鯨井主将。同点タイムリーを放った関谷は「うれしい。自信になった。これからもチームのために貢献したい」と1年生離れした落ち着いた表情で語った。

◇泥くさく刻んだ1点 川口

 「簡単に勝てる相手じゃない。明日は1点差勝負になる」。川口の冨沢監督は試合前日、選手たちと確認し合った。どう転んでもおかしくなかった一進一退の攻防は、劇的なサヨナラで幕を閉じた。

 八回裏に4番橋本の左前適時打で3−3の同点に追い付いた。直後の九回表の守備が勝敗を分けた。1死満塁の大ピンチ。1番黒沢の打球は中堅へ高々と上がった。中堅手の守田は体勢十分、本塁上で待つ捕手小暮へ矢のような好返球。三塁走者を本塁上で刺してダブルプレー。「タッチアップはいつも練習していた」と準備を怠らなかった守田が窮地を救った。

 その裏、川口の先頭打者は守田。外角の直球を打ち損じたかに見えた当たりは、右前へぽとりと落ちた。北が犠打でつなぐと、副主将・青山の二ゴロを、九回から交代で入った二塁手が悪送球。サヨナラの生還を果たした守田は次打者の小暮と抱き合って喜びを分かち合った。

 川口がキーワードに掲げる「確認」と「準備」。就任3年目で28歳の冨沢監督は「目指すべき方向に来ている」と息詰まる展開の中に確かな収穫を見いだした。

◇15奪三振、投手戦制す 狭山ヶ丘

 炎天下の息詰まる投手戦。「球が上ずっていたので低めに投げることだけ心掛けた」というエース桜井岳が、終わってみれば15奪三振の快投で、チームを勝利に導いた。

 桜井岳には昨夏、ゼロ行進で迎えた六回に奪われた2点で敗退した苦い経験があった。「先制されたらきつい」。その一心で投げ込んだ直球が打者の外角で威力を発揮し、深商打線から見逃しだけで7三振を奪った。

 「去年のままだったら崩れていた。少しは成長できたかな」と苦しんだ1勝を素直に喜ぶ桜井岳。冬場の走り込みと筋力トレーニングが、六回以降の8奪三振という尻上がりの制球力に結び付いた。捕手の宇野も「得点後に球が上ずったけど、よく持ち直した。15奪三振はびっくり」と、エースの奮闘に誇らしげだ。

 六回に先制3点三塁打を放った小湊は「構えたミットに我慢強く投げ込む先輩を見ていた。絶対打たなきゃと思った」と値千金の一打に満面の笑み。「4−0」のスコアには表れない。チームの成長が随所に詰まっていた。

◇秘密兵器が好投 春日部共栄

 本多監督の“秘密兵器”がベールを脱いだ。背番号20の押田が公式戦初登板で初先発。右腕は「楽しかった」と笑顔を見せた。もともと上投げだったが、昨秋から横投げに変更。めきめきと頭角を表し、3年夏の今大会で初のベンチ入りを果たした。この日は緩急自在に5回を3安打無失点。「救援でも強気の投球をしたい」と次の登板を待ち焦がれていた。

◇真っ向勝負も惜敗 所沢中央

 3−3の延長十二回裏1死二、三塁。聖望学園・斎藤の打球が中前に抜けると、2時間52分の熱戦に終止符が打たれた。

 昨秋の新人大会で聖望学園と対戦。0−10でコールド負けし、どん底からのスタートだった。「夏の大会までにこの差を埋めたい」(若林主将)と練習に明け暮れた。

 リベンジを誓った試合で、ナインは成長した姿を見せる。六回までに先発・墨が3失点を喫したが、七回以降は安打を許さず。打撃陣もエースの踏ん張りに応え、七回に同点に追いつく粘りを見せた。

 それでも、最後は「スタミナが切れてしまった」とエースが連打を許して惜敗。選手は涙に暮れた。

 「負けたのは残念だが、ここまで成長してくれてうれしい」と村上監督。一昨年の覇者相手に引き下がることなく、真っ向勝負をしたナインに、試合後はスタンドからこの日一番の大きな拍手が送られた。

埼玉新聞