秘策あり 目指せ甲子園(中)打撃

◇「綱登り」で握力強化

 グラウンド脇の建物からつり下げられた3本の綱。歯を食いしばり、必死によじ登る選手たち――。

 春夏合わせ甲子園出場3回の実績がある花咲徳栄で10年以上続く「綱登りトレーニング」だ。綱の長さは8メートル、太さは直径7センチ。両腕だけで登らなくてはならないが、3年生になれば8割の選手ができるようになるという。

 公園の登り棒をヒントに、岩井隆監督が考案した。狙いは握力の強化。バットを握る力が強くなればスイングのスピードが増し、球威に負けない打撃ができるようになる。

 花咲徳栄では、無理に筋肉を付ける必要はないとして、器具を使ったウエートトレーニングをほとんどしていない。「綱登り」なら自分の体重を支える程度の「個々の選手に適した筋力」(岩井監督)が身につく。

 3年生の広岡翔太主将は、入学時に45キロ前後だった握力が55キロにアップしたという。腕をさすりながら「センターから右方向へ素直にはじき返す力がついた」と自信をのぞかせる。

 今春の県大会でのチーム打率は3割9分9厘。「綱登り」で鍛えた打撃力を武器に、4回目の甲子園を目指す。

 一列になった選手が鋭い目つきで黙々とパンチを繰り出す。児玉のグラウンドで「シャドーボクシングレーニング」が始まると、あたりの雰囲気が一変する。

 打席で構える時と同じスタンスを取り、両腕の脇を締め、腰をしっかり回転させ、投手の方向に利き手で思い切りパンチする。

 この動きは、理想の打撃フォームにつながるという。スイングの軌道が最短になり、「小柄な打者もボールに大きな力を伝えられるようになる」(新井亨夫監督)。選手からも「内角の速球をうまく打ち返せるようになった」との声があがる。

 トレーニングはパンチ1分、休憩3分で1セット。これを5回繰り返すと、息が切れて汗が出てくる。持久力もつきそうだ。

 児玉は部員が14人しかおらず、紅白戦など実戦的な練習ができない。

 こうしたトレーニングの導入は、単調になりがちな日々の練習に変化をもたらす狙いもある。

 「漢字の勉強で攻撃力強化を」。珍しいトレーニングに励むのは北本の選手45人。始業前の午前8時から、校舎内で漢字のテキストに向かう。漢字検定試験にもチャレンジしている。

 勉強で集中力と達成意欲を高め、犠打やスクイズなど緊張する局面を乗り越える精神力を養う。

 「状況に応じて取るべき作戦、球種やコースが自然と頭に浮かぶようになる」(鹿沼俊之部長)。プレッシャーに負けない明鏡止水の境地。漢検準2級の小川弘輝主将は「どんな時も落ち着いて場を読めるようになった」と漢字学習の効果のほどを語る。

◇専門家の目

国士舘大学・角田直也教授(スポーツバイオメカニクス)「力と速さ、バランス重要」

 バットを握る位置は、打つ瞬間に重要な支点となる。握力の強化は打撃の基本だ。もっとも、過度な力でバットを握ると、スイングのスピードが鈍る。球を遠くへ飛ばすには、力とスピードのバランスが重要になる。

 理想のスイングは、腰の回転が先行し、腕が遅れて続く形だ。「腰の回転」と「体の軸」を意識するシャドーボクシングは、効果的な練習方法だと思う。

 打席では、サインの理解力や「次の一球」の判断力が問われる。漢字でも計算でも、勉強を通じてこうした力を磨くのはいいことだ。文武両道にもつながる。

(読売新聞埼玉版)